「謎坊主」(横溝正史)

謎坊主・春雪に遠く及ばない佐七の「謎解き」

「謎坊主」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳一」)
 春陽堂書店

元絵師で
骨董品鑑定を生業としている
花房千紫夫婦が
何者かに惨殺される。
妻・千代は胸を刺され、
夫・千紫は首なし死体で
井戸から発見されたのだ。
その下手人として、
盲目の春雪が捕らえられる。
春雪は血まみれの着物を
着ていたが…。

横溝正史の時代ものミステリ、
人形佐七捕物帳の第二話です。
ミステリではよくみられる
「首なし死体」。
不可解な事件の真相を、
人形佐七が解き明かします。

【捕物帳〇〇二「謎坊主」】
〔主要登場人物〕
春雪
…「謎坊主」と呼ばれる盲人の坊主。
 十六七。頓智がきく。
花房千紫
…書画骨董の鑑定業。五十前後。
 若い頃は旅絵師で
 雁金紫紅と名乗っていた。
お千代
…千紫の女房。三十を超えたばかり。
お米
…千紫夫妻の若い女中。
天運堂其水
…千紫の兄。千紫とは仲が悪い。
佐兵衛
…千紫のもとに出入りしている道具屋。
 知人から売却依頼されている
 探幽の掛け軸を千紫に預けている。
石田弥兵衛
…佐兵衛や春雪と同じ長屋に住む浪人。
お玉
…弥兵衛の娘。
 春雪が無実である証言をする。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
鶉の介十郎…佐七と兄弟分の御用聞き。
のろ松…下っ引き。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
〔事件の概要〕
①花房千紫夫婦の死体発見。
 お千代は胸を刺され、
 千紫は井戸の中から首なし死体で
 発見される。
②千紫が生前、お米に預けた封書には
 下手人として春雪の名が。
③お玉が春雪の無実を証言。
④佐七、下手人捕縛、事件解決。

本作品の味わいどころ①
首なし死体の真相、殺されたのは?

首なし死体は被害者の特定が
できないということであり、
死んだと思われていたのが
「実は別人」であり、
犯人は生きていて逃亡を図るというのが
ミステリにおけるセオリーです。
しかし、読み手の裏をかいて
「やはり本人」という設定も
見受けられます。

横溝はこうした
「首のない死体」のトリックを
いくつも創り上げています。
一作一作ごとに、手を替え品を替え、
「首なし死体」のヴァリエーションを
編み出しているのです。
本作品の場合、首なし死体は
千紫本人・別人、どちらなのか。
盲人の春雪の証言が、
最後の決め手となるのが秀逸です。
この、「首のない死体」のトリックを
時代物に応用させた設定こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
謎坊主春雪と千紫夫妻との関係は?

そもそも最初の章で
春雪が「謎坊主」として
売れっ子になるまでの経緯を記し、
次の章では
元絵師・千紫の人となりが語られます。
この段階では、
まったく筋書きが見えてきません。
続いて春雪が佐兵衛に依頼した
奇妙な絵馬の作画が、
元絵師の千紫に持ち込まれ、
そこから二人が
つながり始めてくるのです。

春雪が依頼したのは
「曾我の鬼王が節季の債鬼に、
責め立てられているところ」
「お小僧と画工が碁を打っていて、
そのお小僧が画工に、
斬りつけているという図」の
二つなのです。
それはいったい何を意味しているのか?
まったく繋がらないはずの
春雪と千紫夫妻の関係が、
終末では見事に繋がっていく謎解きが
素敵です。
この、つながるはずもない
謎坊主春雪と千紫夫婦を
見事に結びつけた筋書きこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
意識せずとも仇討ち成就、運命の妙

実は春雪、幼い頃に自身を失明させ、
母親を奪い、
結果的に父親まで死に至らしめた
旅絵師を探していたのです。
春雪の願いは意図しない形で成就され、
めでたしめでたしとなります。
この、意識せずとも成就した、
善人春雪の運命の妙こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

ところで、この「謎坊主」春雪は、
どうやら実在の人物のようです。
本作品に記されてあるように、
「謎々」を披露して人気を博した、
いわば芸人の一種だったのでしょう
(謎々とは
「○○とかけて、××と解く。
その心は△△」という、
ことば遊びのこと)。
客が出すどんな難題の謎でも
即座に解いてしまう名人だったと
伝えられています。
商才もあったようで、
人気が出ると興行のための小屋を造り、
幅広く集客するとともに、
謎を20題解くごとに
客を入れ替えるなど、「謎々」を
エンターテインメント・ビジネスとして
成功させたのです。
景品を賭け、解けない場合は
それを客に進呈する
システムだったようですが、
彼は一度も景品をとられたことが
なかったという逸話が残っています。
このように横溝は、
この人形佐七捕物帳に、
実在の人物を織り込むことが
多々あります。
それを調べることも
本シリーズを読む愉しみの一つです。

本作品における佐七の「謎解き」は、
証拠を立てて論理的に推理するような
本格ものではありません。
ほとんど「直感」のようなものであり、
春雪の「謎解き」に遠く及びません。
それでいいのです。
時代ものは人情が大切です。
人情を前面に押し出した佐七の捕物帳。
ぜひご賞味あれ。

(2018.1.1)

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