
殺人鬼の佝僂女、過去の怨念か!?
「括り猿の秘密」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳二」)
春陽堂書店
ならず者がひったくった
風呂敷包みから出てきたのは、
若い娘の生首。
それは呉服商ひさご屋の娘・
お浪のものだった。
生首と一緒に入れられていた
「括り猿」を見て、
お波の姉・お長は気を失う。
どうやら下手人に
心当たりがあるらしく…。
横溝正史の人形佐七捕物帳、
第二十五話。
表題の「括り猿」とは
四肢を縛られた猿のぬいぐるみ。
江戸時代は若い娘のマスコットとして
身につけられていましたが、
霊力のあるお守りでもあり、
現在でも広く使われているものです。
それが生首とともに入れられていた
意味は何か?
人形佐七がその謎を解き明かします。
【捕物帳〇二五「括り猿の秘密」】
〔主要登場人物〕
宗助
…人形師。生首の入れられた
風呂敷包みを持っていた男。
いかりの八
…宗助の風呂敷包みをかっぱらった男。
「お高祖頭巾の女」
…佝僂の女。宗助の風呂敷包みを
すり替えたらしい。
弥左衛門
…呉服商ひさご屋の主人。二十四歳。
お長
…弥左衛門の妹。十九歳。
何か秘密を知っている。
お浪
…弥左衛門、お長の妹。十七歳。
殺害される。
忠八
…ひさご屋番頭。
釜屋仙兵衛
…呉服商。かつて先代弥左衛門の
窮地を救った。その後、
店が傾いたとき、先代弥左衛門に
支援を断られている。故人。
お咲
…仙兵衛の一人娘。宗助の許嫁だったが、
一方的に破断され、病に罹患、
一命を取り留めるが佝僂となる。
行方知れず。
辰・豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
〔事件の概要〕
・辰、いかりの八を取り押さえ、
風呂敷包みから生首を発見。
・風呂敷包みは宗助が蕎麦屋で
佝僂の女にすり替えられたもの。
・生首はひさご屋のお波であることが
判明。
・お波の葬儀の晩、佝僂の女が
ひさご屋に侵入、弥左衛門重傷。
・佐七、下手人を罠にかけ捕縛。
事件解決。
本作品の味わいどころ①
娘の生首と括り猿、奇怪な事件
かっぱらいの盗んだ
人形師の風呂敷包みからは
生首が飛び出してきた。
それだけでも驚きなのですが、
その経緯もミステリアスです。
呉服屋の店先に飾る人形の頭部が、
いつの間にか生首と入れ替わっていた。
しかもその生首は依頼主のひさご屋の
娘のものだったというのです。
いかにも横溝らしい、
おどろおどろしい事件の幕開けです。
さらに生首に添えられていた括り猿が、
殺害された娘の姉である
お長を驚かせているのです。
そこにはどんな秘密が
隠されているのか?
この、娘の生首と括り猿から
幕が開ける奇っ怪な事件の姿こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
殺人鬼の佝僂女、過去の怨念か
人形師の風呂敷包みをすり替えた
「お高祖頭巾の女」はなんと佝僂。
それはひさご屋に恨みを抱いて
姿を消した娘・お咲である
可能性が高まってくるのです。
かつて無一文になった先代弥左衛門を
窮地から救ったのが釜屋仙兵衛。
その釜屋が傾いたとき、
弥左衛門は手を差し伸べるどころか
縁談を破断し、見捨てていたのです。
それが原因となって
釜屋夫妻は相次いで死亡、
娘のお咲は佝僂となって行方不明。
親の恨みを子が受ける。
いかにも横溝らしい事件の背景です。
はたして殺人鬼の佝僂女の正体は
お咲なのか?
ひさご屋の現当主・弥左衛門、
そしてもう一人の妹・お長の運命は?
この、過去の怨念が渦巻く
事件の真相こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
事件解明、誰も救われない結末
もちろんその謎を
佐七がすべて解き明かします。
詳しくはぜひ読んで確かめてください。
事件は解決しても、結果として
誰も救われない陰惨な結末です。
今回ばかりは
捕物帳に見られる人情話よりも
ミステリとしてのおどろおどろしさが
優先されたのでしょう。
この、佐七の見事な推理と
誰も救われない悲しい結末こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
人形佐七捕物帳の場合、
登場人物が限られ、謎を解かなくとも
読み手は下手人を割り出せてしまうのが
玉に瑕かもしれません。
ミステリとしての謎解きの面白さと、
時代物としての人情話の涙の、
そのどちらを求めるか、
難しい問題ではあるのですが、
まずはぜひご一読を。
(2018.1.14)
〔「完本 人形佐七捕物帳二」〕
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