「振袖幻之丞」(横溝正史)

斬られた若衆は若い娘、倒れていた振袖姿は美少年。

「振袖幻之丞」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳二」)
 春陽堂書店

三囲土堤のかたわらで
斬り殺された若衆、
そして気を失って倒れていた
振袖姿の娘。
何者かに襲撃された男女だが、
若衆は実は女であり、
振袖姿の方が男であった。
しかもその若い男は、
言葉も話せず、
歩くこともままならなかった…。

横溝正史人形佐七捕物帳
第二十八話です。
入れ替わっていた男女が
襲撃されたのも驚きなら、
生き残った若い男は
まるで赤ん坊のように
言葉も話せず歩くこともままならない。
事件の背景に何があるのか?
人形佐七がその謎に挑みます。

【捕物帳〇二八「振袖幻之丞」】
〔主要登場人物〕
幻之丞
…襲撃された振袖姿の若い男。
 口もきけず、歩行も不自由。
 神崎甚五郎に保護される。
内藤紀伊
…旗本。故人。訳あって
 幻之丞を下屋敷に監禁していた。
内藤鉄之助
…紀伊の息子。内藤家を相続した。
 幻之丞を引き取ろうとする。
梅助
…内藤家下屋敷で
 幻之丞を養育していた下男。
おきん
…梅助の姪。神田明神境内の矢取り女。
 幻之丞を暗殺する。
お縫
…おきんの妹。
 内藤家下屋敷に出入りしていた。
右近…謎の人物。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
〔事件の概要〕
①入れ替わりの男女の死傷事件。
・振袖姿の若い男は幻之丞。
 殺害されたのは若衆姿のお縫。
②佐七、内藤家下屋敷の庭で
 頭蓋骨と卒塔婆発見。
③おきん、神崎甚五郎役宅に侵入、
 幻之丞を暗殺。幻之丞、死亡。
④神崎・佐七、内藤鉄之助に事件の報告。
・佐七、推論を具申。事件解決。

本作品の味わいどころ①
瓦版を賑わす奇っ怪な事件

物語は江戸時代の
瓦版の口上から始まります。
瓦版を売るためには口上が大切。
聴衆を引きつけなければ
誰も買ってくれない、
話しすぎれば買う必要がなくなる。
したがって
大衆の興味をかき立てる事件でなければ
瓦版に載らないのです。
その点、
本作品の事件は「瓦版向き」です。
斬り殺された若衆が実は女であり、
その傍らで倒れていた振袖娘が
実は若い美少年。
こんな死傷事件が起きれば、
現代でも週刊誌やネット記事の
格好のネタにされるはずです。

しかも若い美少年は、
口もきけず、歩行も困難。
どうやら十数年もの間、
どこかに監禁されて
生きてきたらしいのです。
こちらも面妖です。

この「赤ん坊のような美少年」という
設定は、昭和2年発表の
「三年の命」で使用されたものであり、
また土蔵に監禁されて育てられたという
設定は、昭和11年の
「真珠郎」にも見られます。
横溝はこうした設定が
好きだったのでしょう。

本作品の味わいどころ②
美女暗殺者おきんの言い分

「男女入れ替わり死傷事件」は、
その真相が一向に見えない中、
内藤家からの圧力があり、
取り調べは中止させられます。
神崎が保護していた幻之丞は内藤家へ
引き渡されることになったのですが…、
その前夜、おきんが侵入、
幻之丞を殺害するのです。

このおきん、
「男女入れ替わり死傷事件」の
瓦版買い入れの際の挙動が
怪しかったため、
佐七が目をつけていた美女なのです。
調べてみると
「入れ替わり」で死亡した娘・お縫は
なんとこのおきんの妹。
すると幻之丞襲撃は妹の敵討ち?
なぜ?

本作品の味わいどころ③
佐七の鋭い推理、いや空想

そのおきんの犯行動機は
もちろん佐七が解き明かすのです。
そして「入れ替わり死傷事件」、
「内藤家の過去の不祥事」、
「幻之丞の長期監禁」、
「内藤家下屋敷における人骨と卒塔婆」、
「発声と歩行能力が突如回復した
幻之丞の謎」をすべて結びつけ、
事件を解決に導くのです。

と書くと、いかにも佐七が
見事な推理を披露したような
錯覚を起こすのですが、
今回は「推理」というよりは「想像」、
いや「空想」、もしかしたら
「妄想」といった方がいいくらいの
レベルです。
上に記したいくつもの要素が
すべてかみ合うように
物語をつくってみました、という
ところなのです。

それでもいいのです。
時代ものでは「決定的証拠」を
指摘するのは困難なのです。
そこにどのようなドラマがあったかが
大切です。
佐七の「名推理」、
いや「名空想」を楽しみましょう。

(2018.1.19)

〔「完本 人形佐七捕物帳二」〕
敵討人形噺
恩愛の凧
まぼろし役者
いなり娘
括猿の秘密
戯作地獄
佐七の青春
振袖幻之丞
幽霊姉妹
二人亀之助
風流六歌仙
生きている自来也
血染め表紙
怪談五色猫
本所七不思議
紅梅屋敷
からくり御殿
お化小姓
嵐の修験者

「佐七の青春」

〔関連記事:人形佐七&時代物〕

「神変稲妻車」
「髑髏検校」
「矢柄頓兵衛戦場噺」

〔「完本 人形佐七捕物帳」〕

〔横溝ミステリはいかが〕

おどろおどろしい世界の入り口
Chil VeraによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「就眠儀式」
「グリーン車の子供」
「人形はなぜ殺される」

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA