「幽霊姉妹」(横溝正史)

次々に提示される下手人像、幽霊の正体は?

「幽霊姉妹」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳二」)
 春陽堂書店

材木問屋・山川屋宇兵衛の催す
燈籠流し。
それは春に水難事故死した娘・
お通の供養を兼ねたものだった。
その燈籠流しの最中、
お通の幽霊が
目撃されるとともに、
宇兵衛の乗った舟が浸水して
沈んでしまう。
宇兵衛は助け出されるが…。

横溝正史人形佐七捕物帳
第二十九話です。
春と夏の二回の水難事故で、
娘二人が行方不明、
後妻と番頭が刺殺された材木問屋の主。
その裏には何かがあるとにらんだ
人形佐七、
複雑な事件の謎を解き明かします。

【捕物帳〇二九「幽霊姉妹」】
〔主要登場人物〕
山川屋宇兵衛
…お城御用の材木問屋。娘・お通の
 供養のための燈籠流しを催す。
お通
…宇兵衛の長女。十七歳。先妻との娘。
 春に水難事故で
 行方不明となっていた。
お島
…宇兵衛の次女。十四歳。後妻との娘。
 燈籠流しの最中、行方不明となる。
お妻
…宇兵衛の後妻。刺殺される。
茂左衛門
…山宇の大番頭。刺殺される。
幸助
…山宇の手代だったが、お通の事故の
 責任をとらされ暇を出される。
柏谷伝右衛門
…材木問屋の主だったが、不正を行い、
 島流しになっていた。
千代松
…蜆売りの少年。お島の簪を届ける。
「ご隠居」
…横町のご隠居。閑人。
金太郎
…仕事師。「ご隠居」とともに
 銭湯で燈籠流しの噂話をする。
お粂…佐七の女房。
豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
〔事件の概要〕
①春、船の転覆により、
 お通、行方不明となる。
②燈籠流し
・お通の幽霊の乗った舟が目撃される。
・山宇の船が転覆。
 宇兵衛は幸助と佐七が救出。
 幸助はその後、行方知れず。
 お島は行方不明。
 お妻・茂左衛門、刺殺体で発見。
③千代松、お島の簪を辰五郎に届ける。
④佐七、幽霊屋敷に潜入。
 罠にはまるものの、救出され、
 最後の事件を未然に防ぐ。
 事件解決。

犯人像(というか下手人像)は、
二転三転します。
次々に提示される犯人像の真偽を
読み手が吟味することこそ、
本作品の味わいどころといえるのです。
それはお通、お妻と茂左衛門、
柏谷伝右衛門の三組です。

本作品の味わいどころ①
あの世から迷い出たか?お通

事件の幕開けとして現れるのは、
舟に乗ったお通の幽霊。
濡れ髪で額から血を流した姿で
現れるのですから、
おどろおどろしさ満点です。
その直後に舟が浸水して
宇兵衛、お島、お妻、茂左衛門の四人が
川に投げ出されるのですから、まさに
お通の怨念がそうさせたかのような
恐怖があるのです。

しかし人形佐七捕物帳は
オカルトでもホラーでもありません。
幽霊に見せかけた仕掛けと目的が
潜んでいるのです。
しかも燈籠の一つに
お通の簪が入っていた以上、
仕掛け人がいるはずです。
誰が何のために?
お通は生きているのか、
それともやはり死んでいるのか?
そしてその後に起きた
刺殺事件の犯人はお通なのか、
それとも別の誰かなのか?
お通という下手人像を
解析することこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
怪しい動きのお妻と茂左衛門

ところが、刺殺されたお妻と茂左衛門は、
事前に(現代でいうところの)
着衣水泳練習をしていたことが
判明します。まるで
水難事故を予見していたかのような
怪しい動きです。
お通は先妻の娘である一方、
お島はこのお妻が産んだ娘であることも
明かされます。
舟の浸水はこの二人の仕業なのか?
その目的は何か?
二人を刺し殺したのは
いったい誰なのか?
お島の行方はどうなったのか?
宇兵衛を救出した幸助は
なぜ行方をくらましたのか?
お妻と茂左衛門という下手人像を
分析することこそ、本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
強い恨みを抱く柏谷伝右衛門

家人すべてを失った宇兵衛。
その理由を佐七が問いただしても、
頑として口を閉ざす宇兵衛。
しかし隠された事実が
明らかになります。
宇兵衛は遠島となっている
柏谷伝右衛門から
強い恨みを受けていたのです。
その事情については
ぜひ読んで確かめてみてください。

幽霊屋敷が怪しいとにらんだ
(ほぼ直感!)佐七が、
最後の勝負に出ます。
はたしてすべての犯罪は
伝右衛門の仕業なのか?
お島の簪を届けた
蛤売りの少年は何者なのか?
お通とお島の姉妹の
生死はどうなっているのか?
幽霊屋敷には
どんな秘密が隠されているのか?
宇兵衛に恨みを抱く
柏谷伝右衛門という下主人像を
検証することこそ、本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

というわけで、
犯人像は絞り込めません。
なぜならそこに
二つの悪意が交錯しているからです。
最後は人情話で締めくくる
人形佐七捕物帳、
ぜひご賞味ください。

(2018.1.21)

〔「完本 人形佐七捕物帳二」〕
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