「檻の中の女」(横溝正史)

殺人事件は起きたのか起きなかったのか?

「檻の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫

鈴の音のする
不審なボートに載せられた
檻の中には、瀕死の女性が
閉じ込められていた。
女性は一命を取り留めたが、
その自宅では
殺人事件が演じられた形跡が
残されていた。
だが一緒にいた男の姿はなく、
大量の血痕だけがあり…。

金田一耕助の短編11編を収めた
「金田一耕助の冒険」の中の一篇です。
出だしから横溝正史らしい
おどろおどろしさ全開です。
単なる猟奇殺人のように見えて、
意外な真実が顔を出してきます。

【事件簿File-055「檻の中の女」】
〔事件発生〕
昭和32年(東京・浅草)
〔依頼人〕
該当なし(警察への捜査協力)
〔捜査関係者〕
山崎鑑識課員
…緒方静子の家を調査・鑑定。
木村刑事…ボートを調べた水上署員。
新井刑事…警視庁捜査一課刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
緒方静子
…ボート上の檻の中で瀕死状態で発見。
進藤啓太郎
…政府のある省の官吏。静子の情夫。
 不正疑惑が持たれている。
中村清治
…静子が働いていた料理屋「花清」亭主。
お仲
…「花清」女中。
筆者…本作品の記録者(=横溝自身)。
〔事件の概要〕
①隅田川河川上にて、
 檻に入れられボートで流されている
 女性を発見。女性は生存。
②浅草今戸河岸の女性宅にて、
 殺害されている犬の死体と
 多量の血痕が発見される。
 血痕に人間の血液の存在も確認。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
都会が舞台でもおどろおどろしさは全開

金田一の短篇作品の多くは
東京が舞台であり、
おどろおどろしさは引っ込んで
エロティシズムやグロテスクが
漂うことが多いのですが、
本作品は違います。
冒頭には、
女性を閉じ込めた檻を載せた船が
鈴を鳴らして現れるという、
ホラーか怪談を思わせるような事件が
発生します。
そしてその被害者宅において
大量の血を流して
大型犬がめった刺しにされている、
異様な殺人現場が登場します。
なんとも奇怪な事件です。
この都会における
おどろおどろしい殺人事件を、
まずはじっくり味わいましょう。

ただし、ここでの
檻・船・鈴・女のシチュエーションは
由利・三津木シリーズ
「猿と死美人」にも用いられている
設定です。
横溝はよほど
気に入っているのでしょう。

本作品の味わいどころ②
殺人事件は起きたのか起きなかったのか

大量の血痕はほとんどが犬の血。
人間の血液も
検出されているのですが、それは微量。
検出された以上は何かが起きている、
かといって人が死んだにしては
少なすぎる、捜査は混迷をきたします。
本当に殺人事件が起きたのか?
それとも偽装殺人なのか?
その謎解きこそ、
本作品の肝となっているのです。
殺人事件か偽装殺人か、
その謎を心ゆくまで味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
助言だけして積極的に関わらない金田一

今回の金田一は、積極的に
捜査に関わろうとはしません。
助言だけを残して
あとは等々力警部に任せるのです。
依頼された事件ではないからなのか、
それ以上は自分が出しゃばらなくとも
解決できると踏んだのか、それとも
あまり興味の湧かない事件だったのか、
仔細はわかりませんが、
淡々とした金田一もまた魅力的です。
いつも以上にクールな金田一を、
最後にたっぷりと味わいましょう。

「○○の中の女」という表題で統一された
短編集「金田一耕助の冒険」の
第10作に当たる本作品。
やはり味わいのある作品です。

(2018.2.1)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2023.6.25)

〔追記〕
2022年6月、
ついに本書が復刊となりました。
昭和51年に文庫初版が刊行された後、
昭和54年には二分冊、
それも杉本一文装丁ではなくなり、
大変残念な気持ちでいました。
復刊というよりは、今回40数年ぶりの
杉本一文装丁画の復活が
喜ばしいことです。
旧版は下の通りです。

昭和時代の表紙

新版はデザインが
マイナー・チェンジしています。

「金田一耕助の冒険」令和4年復刊版表紙

(2022.6.25)

〔「金田一耕助の冒険」〕
霧の中の女
洞の中の女
鏡の中の女
傘の中の女
鞄の中の女
夢の中の女
泥の中の女
柩の中の女
瞳の中の女
檻の中の女
赤の中の女

〔横溝正史:金田一耕助の事件簿〕

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