金田一耕助の事件簿047
もしや犯則技?多様な捜査手法を見せる金田一
「泥の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫
訪問した屋敷の離れに
死体を発見したヤス子は
交番に通報、
巡査をその家に案内するが、
死体はどこかに消えていた。
それどころかその家の住人が
戻ってきていて
何事もなかったように
酒を飲んでいたのだ。
死体はいったいどこへ…。
横溝正史の金田一耕助シリーズの
短篇作品です。
消えた死体は
やがて発見されるのですが、
単純な事件に見えて、
実は真相がなかなか見えてこない
不思議な味わいの作品です。
【事件簿File-047「泥の中の女」】
〔事件発生〕
昭和32年2月(東京)
〔依頼人〕
等々力警部(警察への捜査協力)
〔捜査関係者〕
山口警部補…高井戸署捜査主任。
古谷警部補…三鷹署警部補。
根上巡査
…三鷹署の巡査。ヤス子の通報に対応。
新井刑事…警視庁捜査一課刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
立花ヤス子
…西条家の離れで死体を発見。
若く貧しい掃除婦。
立花信吉…ヤス子の夫。
川崎龍二
…探偵作家。ある屋敷の離れを仕事場
兼逢い引きの場として使っていた。
松本梧朗
…川崎の古い友人。
川崎の助手的な仕事を担当していた。
浅茅タマヨ
…川崎の愛人。キャバレーのダンサー。
久保田昌子…川崎の愛人。小学校教員。
本作品の味わいどころ①
なぜ死体が消えたのか?
留守中の川崎宅で偶然
死体を見つけてしまったヤス子。
ところが巡査とともに駆けつけると、
なぜか死体は消えている。
舞い戻っていた家主・川崎は、
死体など知らぬという。
まもなく死体は付近の川から見つかり、
それは川崎の愛人の一人だという。
殺人はあったのか、なかったのか?
川崎宅から死体が消えた理由は?
ヤス子が目撃した女性はいったい誰?
短篇ながら謎が満載です。
本作品の味わいどころ②
反則技を繰り出す金田一
本来ならばそこで金田一の推理が
冴え渡らなければならないのですが、
本作品での金田一の行動は
やや強引です。
単独で現場を再捜査して
二つめの死体を発見したのは
いいのですが、
それを交番に通報したまま
行方をくらまします。
さらには新聞記者に依頼し、
誇張した目撃情報を掲載させます。
それは反則技では?
推理や冒険だけでない、
多様な捜査手法を見せる金田一が
愉しめます。
本作品の味わいどころ③
犯人はいったい誰なのか?
二人目の愛人の死体が発見され、
川崎は服毒自殺を計ります。
いかにも怪しい探偵作家・川崎が
自殺を計ったのですから、
犯人に間違いありません。
ところが、まだまだ
金田一の捜査は続きます。
いつものように「もっとも怪しい人物が
実は犯人ではない」だけなのですが、
では真犯人は?
登場人物が限られている中で、
なかなか先を読ませない展開は
さすが横溝ミステリです。
捜査陣を煙に巻いたかと思うと、
その一方で
「どうも、この金田一耕助という野郎、
とんでもないのろま野郎でさあ」と、
自嘲気味に語る金田一。
それを「はんぶんからかい顔に、
しかし、はんぶん真剣な面持ちで」
見守る等々力警部。
本作品は、そんな二人の温かな関係が
滲み出ている好編です。
ぜひご賞味ください。
〔本書収録作品一覧〕
「霧の中の女」
「洞の中の女」
「鏡の中の女」
「傘の中の女」
「鞄の中の女」
「夢の中の女」
「泥の中の女」
「柩の中の女」
「瞳の中の女」
「檻の中の女」
「赤の中の女」
〔関連記事:金田一&等々力警部の事件〕
(2018.3.1)
〔追記〕
2022年6月、
ついに本書が復刊となりました。
昭和51年に文庫初版が刊行された後、
昭和54年には二分冊、
それも杉本一文装丁ではなくなり、
大変残念な気持ちでいました。
復刊というよりは、今回40数年ぶりの
杉本一文装丁画の復活が
喜ばしいことです。
旧版は下の通りです。
新版はデザインが
マイナー・チェンジしています。
(2022.6.25)
【復刊!角川文庫:横溝正史】
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