「乱歩作品の風味」「横溝後期の予兆」「横溝前期の特徴」
「花髑髏」(横溝正史)
(「花髑髏」)角川文庫
「花髑髏」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成2」)
柏書房
探偵・由利のもとに舞い込んだ
差出人不明の手紙。
そこには殺人事件の予告と
由利への挑戦、
そして「花髑髏」の署名が
記されてあった。
三津木とともに
手紙の指定している場所へ
駆けつけた由利の眼の前で、
血を流した娘が見つかる…。
殺人事件の現場にあった、
被害者の血潮で
真っ赤に染まった髑髏標本。
そして周囲には一面の白い野菊の花が。
横溝作品特有の過剰演出、
いや、おどろおどろしい舞台設定です。
【事件簿14 「花髑髏」】
〔捜査関係者〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社記者。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
「花髑髏」
…謎の人物。実体は現れない。
「マスクの怪人」
…気絶した瑠璃子を入れた長持ちの
運搬を勝公に命じた謎の人物。
日下瑛造
…精神病の高名な学者。
何者かに殺害される。
日下瑛一
…瑛造の息子。
事件前、父親と衝突し、家出中。
日下瑠璃子
…瑛造の養子。
5歳のときから育てられている。
長持ちの中から発見される。
宮園魁太
…知的障害を持つ日下家の書生。
事件後、行方不明となる。
湯浅
…瑛造の友人。同じく精神病の学者。
八十川藤松
…日下・湯浅両博士が若い頃に手がけた
患者。犯罪的気質を持つ。
八十川アサオ
…八十川の遺児。行方不明。
勝公
…車夫。不審な男から
長持ちの運搬を依頼される。
本作品の味わいどころ①
江戸川乱歩的な風味:
血塗られた過去の因縁
事件の発端は、被害者・日下医師と
その親友・湯浅医師による
二十数年前の医療事件。
密かに安楽死させられた
凶悪な犯罪者である精神病患者の
落とし胤が
その復讐をするという筋書きです。
常識的に考えると、
顔も見知らぬ実の父親の仇討ちを、
遺された子どもが実行するというのは
多少無理があるのですが、これは
江戸川乱歩が好んで使った設定です。
この、乱歩テイストの復讐劇こそ、
本作品の第一の
味わいどころとなっているのです。
本作品の味わいどころ②
横溝後期作品の予兆:
本格探偵小説の色合い
事件に関係する面々は、
みな怪しい行動を取ります。
まず第一に湯浅博士は、
何かを知っていて隠している様子が
見え見えです。
そして日下医師の息子・瑛一は、
猛烈な親子喧嘩のあとに姿を隠し、
隠密行動を取っています。
知的障害のある書生
(書生で知的障害者というのも
どうかと思うのですが)の魁太も
存在そのものが怪しすぎます。
登場人物がすべて怪しいという、
本格探偵小説の色合いこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなっているのです。
ここまでの
由利・三津木シリーズといえば、
「殺人鬼・真珠郎」(「真珠郎」)
「ゴリラ男」(「夜光虫」)
「絞刑吏」(「首吊船」)
「ファントム・ウーマン」(「幻の女」)など、
「化け物キャラ」の登場が
その大きな特徴となっていました。
ところが本作品の場合、そうした
「化け物キャラ」は現れません。
「花髑髏」は実体としては登場しない上、
「マスクの怪人」は
顔を隠した怪しい人間であるだけで、
決して「化け物」ではないのです。
「化け物キャラ」を封じたことによって、
由利・三津木シリーズに
本格探偵小説の色合いが
現れてきたのです。
登場人物すべてが怪しい、
これこそが横溝の後期作品、
特に金田一耕助シリーズにおける
最大の特徴なのです。
本作品は、そうした
横溝後期の作風の予兆が見て取れる、
貴重な作品なのです。
本作品の味わいどころ③
横溝前期作品の色彩:
結末における試行錯誤
その一方で、もちろんこれまでの
由利・三津木シリーズの色彩も
しっかりと残っています。
特に結末などは
筋書きの面白さを優先させた、
戦前の横溝らしい
幕切れとなっています。
一つは事件の真相の暴き方です。
真犯人に犯行手口を語らせるのは
由利・三津木のコンビではありません。
「花髑髏」なる殺人鬼に追い詰められた
被害者による問いかけによるもので、
結果的に犯人の口から
事件の真相が語られるという展開です。
もう一つは
「バッド・エンド」な結末です。
結果としては殺人鬼の願望が、
時間をおいて叶ってしまうという
後味の悪さが残ってしまうのです。
もっともそれも横溝のねらいであり、
それによって非常にドラマチックな
結末となっているのです。
このように、
「乱歩作品の風味」
「横溝後期の予兆」
「横溝前期の特徴」の
三つを兼ね備えたのが
本作品「花髑髏」なのです。
横溝正史戦前の傑作短篇、
ぜひご賞味ください。
(2018.8.5)
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(2024.8.14)
〔由利・三津木探偵小説集成について〕
角川文庫刊の「花髑髏」は、
2019年1月現在で絶版中です。
先日刊行された柏書房刊
「由利・三津木探偵小説集成2夜光虫」で
読むことができるようになりました。
〔「由利・三津木探偵小説集成2」〕
夜光虫
首吊り船
薔薇と鬱金香
焙烙の刑
幻の女
鸚鵡を飼う女
花髑髏
迷路の三人
付録 夜光虫(未発表版)
編者解説(日下三蔵)
〔関連記事:由利・三津木の事件簿〕
〔柏書房「由利・三津木探偵小説集成」〕
(2019.1.30)
〔角川文庫刊「花髑髏」復刊について〕
2020年6月から放映される
「探偵・由利麟太郎」の第1話が
この「花髑髏」です。
テレビ化に合わせて角川文庫「花髑髏」も
めでたく復刊しました。
表紙デザインは
マイナー・チェンジしています。
※上の画像は復刊版、
下の画像は旧刊版です。
〔角川文庫の由利・三津木シリーズ〕
本書「花髑髏」を含む4点が
「探偵・由利麟太郎」にあわせて
復刊しています。
(2020.6.15)
【今日のさらにお薦め3作品】
【こんな本はいかがですか】