横溝はショートショートの名手でもあった
「建築家の死」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
短篇コレクション③」)柏書房

「建築家の死」(横溝正史)
(「ペルシャ猫を抱く女」)角川文庫

夜になると
すすり泣きのような声が聞こえる
奇妙な建造物。
小高い丘の上に立つそれは、
ある天才建築家が設計し、
完成直後にその中で自身が
謎の死を遂げたという
いわく付きの建物だった。
友人Mは「私」に
その顛末を話し始める…。
単行本で4頁、文庫本で6頁という、
横溝正史のショートショートです。
ホラーのようにも見え、
ミステリのようにも見え、
そのいずれでもないという作品です。
【主要登場人物】
「私」
…奇妙な建物から
すすり泣きの声を聞く。
M
…「私」の友人。建物のいわれを語る。
O.Y
…奇妙な家を建てた建築家。
謎の死を遂げた。
本作品の味わいどころ①
ホラーを十分予感させる前半部
前半1/3はホラーテイスト満載です。
「私」とMの会話だけなのですが、
おどろおどろしさが広がっています。
「昨晩すすり泣きが
聞こえた」という「私」、
「昨日は語ることを
好まなかった」というM。
夜ではなく、あえて
一晩過ぎてから語らせるあたりが
一層恐怖をかき立てています。
本作品の味わいどころ②
ミステリとして展開する後半部
残り2/3は、その建築物の
いわくについてのMの語りとなります。
天才建築家O.Yの
怪しげな性格が綴られます。
芸術家の奇妙な趣味嗜好や異常な情熱が
悲劇を生み出すことは
得てしてあります。
O.Yは世にも奇妙な建築物を設計し、
その重要部分を
一人で組み上げてしまったのです。
「どこが入口だか
それを探るにだって、
常人には却々(なかなか)骨だ」
「あらゆる秘密な仕掛け、
筒抜けだの、がんどう返し、
滑戸に、おとしあな、と実に
複雑極まる仕掛けがしてあった」。
その中で
死体となって発見された建築家。
事件の真相は一体?
本作品の味わいどころ③
○○○として終わる最後の一行
ところが最後の一行で、
それまで積み上げたホラー的雰囲気と
ミステリ的構成は、すべて自爆し、
ことごとく崩壊します。
なんと最後はコント!
実は初期の横溝は
コントが好きだったのでしょう、
前回取り上げた
「キャン・シャック酒場」等、
いくつか書き上げています。
金田一耕助シリーズしか知らない方には
衝撃的でしょう。
長編ミステリだけではありません。
横溝はショートショートの
名手でもあったのです。
※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
③刺青された男」収録作品一覧
神楽太夫
靨
刺青された男
明治の殺人
蠟の首
かめれおん
探偵小説
花粉
アトリエの殺人
女写真師
ペルシャ猫を抱く女
消すな蠟燭
詰将棋
双生児は踊る
薔薇より薊へ
百面相芸人
泣虫小僧
建築家の死
生ける人形
(2018.8.7)


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