この痛快さもまた横溝なのです。
「花火から出た話」(横溝正史)
(「血蝙蝠」)角川文庫
新城公園の除幕式。
打ち上げられた花火から
落ちてきたのは造花の花束。
それを拾い上げた風間は
三人の男からつけ狙われ、
狙撃までされる。
花束の中から出てきた
猫目石の指輪。
その謎を追う風間は、
公園寄贈者の娘に接触する…。
本作品は昭和13年発表の短編小説。
横溝特有のおどろおどろしさは一切なく、
楽しい謎解き冒険小説となっています。
本作品の味わいどころ①
指輪を巡るハチャメチャな展開
実はこの指輪が曲者だったのです。
新城公園の寄贈者は亡くなる直前、
指輪を奪い取った者に
娘をくれてやるなどと
言い残したものだから、大変です。
娘はそれを造花とともに
花火の中に隠し、
誰の手にも渡らないようにするのです。
ちょっと待って。
それなら人知れず捨てるだとか
埋めるだとかすればいいのに、
わざわざ人目につくように
したのはなぜ?
実際、求婚していた三人の男たちも
めざとく発見しましたよね?
たまたま風間が見つけたから
いいようなものの、
三人の誰かが先に見つけていれば、
まったく意味がありませんよね?
などと突っ込みを入れてはいけません。
疑問を持たずに楽しく読みましょう。
本作品の味わいどころ②
主人公・風間のハチャメチャな性格
主人公・風間伍六は船乗り上がりの
肉体派男性。
三人の嫌がらせにも屈せず、
銃撃にも負けることなく、
罠にはめられても動じません。
それにしても新城家の娘に
接触を図るために、
娘の運転する車に
まずは事故に見せかけて
故意に接触するなど、
それでは単なる「当たり屋」では?
そして終盤、三人が新城邸で花婿決定の
よからぬ談義をしている最中に
不意に現れる。
それは不法侵入というものでは?
などと突っ込みを入れてはいけません。
疑問を持たずに楽しく読みましょう。
本作品の味わいどころ③
横溝らしからぬハチャメチャな展開
風間が指輪を手に入れたのは
まったくの偶然。
しかし新城邸には風間をモデルにした
等身大の塑像がある。
何かそこに大きなからくりが
潜んでいるのでは。
そう思って読み進めると、
決してそうではありません。
設定や展開に
「偶然」が多すぎるのでは?
横溝は緻密な設定が
売り物ではなかったのか?
などと突っ込みを入れてはいけません。
疑問を持たずに楽しく読みましょう。
というわけで、
味わいどころはすなわち
突っ込みどころともなっている
ハチャメチャな作品です。
しかしこの痛快さもまた横溝なのです。
戦前の横溝作品の味わいは
幅広いのです。
しっかり楽しみましょう。
(2018.8.9)