その醜悪さにおいて横溝作品堂々ワースト1の短篇
「生ける死仮面」(横溝正史)
(「花園の悪魔」)角川文庫
(「首」)角川文庫
巡査が異臭漂う
画室を覗いてみると、そこには
腐乱死体の傍らで
デスマスクを手に嗚咽する男が。
男は男色家、
死体は愛した少年のものであり、
死因は病死であることが判明。
警察は死体損壊事件として
扱うが、金田一は異を唱える…。
グロテスク、
あまりにもグロテスクです。
横溝正史には、この手のグロテスクな
作品がいくつかありますが、
本作品はその醜悪さにおいては
同じく屍姦を扱った
「眠れる花嫁」と並び、
堂々ワースト1に挙げられるべき
短篇です。
味わいどころはずばり、
その醜悪さでしょう。
【事件簿File-025「生ける死仮面」】
〔事件発生〕
昭和28年8月(東京)
〔依頼人〕
※依頼人なし。
等々力警部の要請により捜査協力。
〔捜査関係者〕
山下敬三巡査…T警察署巡査。
K博士…腐乱死体を解剖した警察医。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
古川小六
…彫刻家。三十五、六。男色家。
死体損壊の罪で逮捕される。
緒方辰男
…小六が寵愛していた美しい青年。
十八歳。死体で発見される。
古川光子
…小六の妻。別居中。
辰男と関係していた。
緒方欣五郎
…辰男の戸籍上の父親。
光子は親戚にあたる。
緒方やす子
…欣五郎の妻。
緒方重兵衛
…欣五郎の父。大地主で資産家。
辰男の実の父親でもある。故人。
本橋加代子
…緒方辰男の生みの母。
辰男の死について金田一に相談する。
川北医師
…事件の五日前、小六の連れてきた
美青年・青山三郎の診察をした医師。
〔事件の概要〕
昭和28年8月27日
・古川小六のアトリエにて山下巡査が
放置されている腐乱死体を発見、
古川小六逮捕される。
9月3日
・井の頭公園にて
腐乱した人間の頭部が発見される。
以降、腕部脚部が相次いで見つかる。
9月15日
・アトリエ跡地から胴体部発見。
以上、二つの死体が発見される。
本作品の味わいどころ①
死体陵辱のおぞましさ
逮捕された男・古川小六は、数日間
屍体とともに過ごしていたのです。
書くのもおぞましいのですが、
いわゆる「屍姦」です。
本作品にはその描写こそありませんが、
巡査が逮捕に踏み切ったときには、
小六はすでに
その体勢に入っていたのです。
腐敗し、崩れる肉体。
立ちこめる腐乱臭。
情景を想像しただけで
(想像したくないのですが)
気分が悪くなります。
横溝がおどろおどろしさ全開で
書き上げた死体陵辱のおぞましさを、
まずはじっくり味わいましょう
(あまり味わいたくはないのですが)。
本作品の味わいどころ②
男色鶏姦のおぞましさ
その死体は少年のものでした。
おぞましさはさらに
強烈なものとなります。
性の多様化が一般化し、
特にLGBTという性的少数派が
認知された現代においては、
男色をおぞましいなどと表現すれば、
もちろん差別となります。
しかし作品発表の昭和28年段階では、
男色を扱った本作品の衝撃は
大きなものがあったに違いありません。
戦後の混乱期を揺るがした
男色鶏姦のおぞましさを、
次にしっかり味わいましょう
(あまり味わいたくはないのですが)。
本作品の味わいどころ③
切断死体のおぞましさ
その後、別の男の腐乱死体が、
首、腕、脚と次々に発見されます。
それも見つかりやすいように
犯人は意図的に遺棄していくのです。
腐乱死体を切断し、
一つ一つ人目にさらしていくという
切断死体のおぞましさを、
最後にたっぷりと味わいましょう
(あまり味わいたくはないのですが)。
その切断死体の意味は、
殺害されたことを明かしながら
身元の特定を避けるという
巧妙なトリックとなっているのです。
そしてそこには、
横溝得意の複雑な血縁関係と
それにまつわる遺産相続が
背景として横たわっているのです。
事件の真相も真犯人の特定も
二転三転していきます。
本作品は、
グロテスクな際物作品を装った、
本格的な探偵小説なのです。
金田一とともに
事件の真相を探し出すことこそ、
本作品の最大の
味わいどころといえるのです。
十分に堪能しましょう。
さて、長編ものでは
常に犯人に出し抜かれ、
第二、第三の殺人を許してしまう
金田一ですが、本作品のように
すでに起きた殺人事件を
解決することにかけての推理は
パーフェクトです。
「デスマスクは死体となった人物の
ものとは限らない」という
金田一の問いかけが、事件の見方を
百八十度転換していきます。
エログロ要素満載の
シチュエーションの中で、
金田一が淡々と事件を解決していく姿は
痛快でもあり可笑しくもあります。
金田一シリーズの傑作短篇、
ぜひご賞味ください。
(2018.9.9)
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