「花園の悪魔」(横溝正史)

花園の死体、なんともエロティック。

「花園の悪魔」(横溝正史)
(「首」)角川文庫
(「花園の悪魔」)角川文庫

東京近郊のS温泉に併設の花園で
発見された、一糸纏わぬモデル・
アケミの絞殺死体。
現場の遺留品から、犯人は
アケミと交際のあった青年・
山崎と警察は断定した。
しかし一月以上がすぎても
その足取りはつかめなかった。
金田一は…。

横溝正史
金田一耕助シリーズの短篇作品です。
犯人は特定できているのに
なかなか捕まらない。
金田一耕助がその謎を
見事に解き明かします。

【事件簿File-023「花園の悪魔」】
〔依頼人〕
指名手配犯・山崎欣之助の両親
〔捜査関係者〕
村田刑事…警視庁刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
南条アケミ
…殺害されたヌード・モデル。
 事件以前にも同じ場所で
 ヌード撮影を行っていた。
山崎欣之助
…慶応大学の学生。
 アケミ殺害容疑で指名手配される。
鈴木良雄
…アケミが所属していた
 東亜美術倶楽部のマスター。
賀川晴江杉本チカ子安川ナオミ
…東亜美術倶楽部所属のヌードモデル。
本田
…東亜美術倶楽部の事務員。
斎藤泰治
…アマチュア・ヌード写真家。
 金田康造という偽名を使っていた。
篠岡達哉
…事件の日、花乃屋旅館の別の離れに
 宿泊していた男性。
山内三造
…花乃屋花壇の円丁。
 アケミの死体を発見。
お千代
…花乃屋旅館の女中。
〔事件の概要〕
事件発生:昭和28年
4月22日
・謎の青年、花乃屋旅館へ到着。
 それより遅れてアケミが到着。
・21時頃、アケミ絞殺される。
4月23日
・早朝、山内が花壇の中で仰向けの
 ポーズをとったアケミの遺体を発見。
・死後情交の痕跡あり。アケミの着衣の
 一切が持ち去られていた。
・午後、村田刑事による
 東亜美術倶楽部の聞き込み。
・犯人は山崎欣之助と断定、指名手配。
6月8日
・新宿駅一時預かりのトランクから
 山崎とアケミの所持品が見つかる。
・山崎の帽子とコートには血痕あり。
6月9日
・金田一、花乃屋旅館を訪問。
6月15日頃
・金田一、等々力警部に
 事件の真相を報告。
・金田一、真犯人から襲撃を受ける。
・事件解決。

本作品の味わいどころ①
立ちのぼるエロス

金田一の東京もの作品の特徴は
エログロ路線。
本作品も死体発見の情景が秀逸です。
「顔を少し横に向け、
 両手を頭のうしろに組み、
 左足の膝を立て、
 右足をその上に重ねるようにして
 寝ている姿」

チューリップ花壇の中に、
そのようなポーズで横たわっている
若い女性の全裸死体。
場面を想像すると、
美しささえ感じてしまいます。
なんともエロティックです。

被害者アケミは、
かつてその場所を使って同じポーズで
ヌード写真撮影をしているのです。
それを再現した状態で、全裸のまま
花園に横たわっているという、
なにやら怪しげな妖しげな
殺人事件です。

遺体には死後陵辱の痕跡があり、
その点においてわずかながら
グロテスクさが顔を出しています。
それでもエロ・グロの
「エロ」の比重が大きいのです。
その後もヌードモデルたちの聞き込みが
さらなるエロスを予感させます。
この殺人描写から立ち上るエロスこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
「消えた犯人」の謎

エロスが立ち上るのは冒頭だけで、
それ以後は謎解きミステリとなります。
犯行現場に残されたマフラーから、
犯人はその所有者・山崎欣之助と
警察は断定するのですが、
その行方は杳として知れません。
ここで読み手は
山崎が犯人ではないことに気づく
(金田一の出馬が山崎の両親の
依頼によることもあり)のです。
では犯人はいったい誰なのか?
その謎解きが本作品の肝なのです。

アケミと同宿したのは
二十代くらいの若い男であり、
人相は不明。
しかし男性にしては
小柄であったことが証言されます。
最寄りの駅でもそのような人物は
目撃されておらず、
まったく足取りはつかめないのです。
その中で発見された
血痕のついた帽子とコート。
そして現場から持ち去られた
アケミの着衣一式。
帽子とコートはともかく、なぜ犯人は
アケミの着衣のすべてを
持ち去ったのか?
金田一がその謎を解き明かすのです。
この、足取り不明の
「消えた犯人」の謎こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
命からがら金田一

その謎を解き明かした金田一は、
等々力警部を誘って二人だけで、
事件の真相が隠されている現場へと
向かいます。
そしてなんとそこで「もう一つの死体」を
等々力警部に披露するのです。
金田一は死体の見張りを申し出て、
等々力警部には
捜査員派遣の連絡を要請するのです。
それが災難を招きます。
そうして一人となったとき、
真犯人が出現、襲撃を受けるのです。
間一髪で等々力警部が駆けつけて
事なきを得たのですが、
そもそも最初に死体を発見した時点で
通報していれば
このような事態は避けられたのです。

INDEX 金田一耕助の事件簿

短篇作品はどちらかというと
安全な位置から
推理を推し進めるといった印象が強い
金田一ですが、今回ばかりは
そううまくはいきませんでした。
金田一77の事件のうち、
金田一が危険な目に遭う作品は
決して多くなく、「黒猫亭事件」に次ぐ
「金田一危機一髪」となります。
常識的な手続きを踏まない金田一の
悪い面が現れた事例でしょう。
この、命の危険にさらされる
金田一の姿こそ、本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

長編では
事件が起きる前から巻き込まれ、
奮闘むなしく
第二、第三の殺人事件が起き、
最後の犠牲者を間一髪救ったところで
全容を解明するという、
優秀なのか間抜けなのか
今ひとつ判然としないのが
金田一耕助の謎解きの特徴
(ミステリの構造上しかたのないこと)
なのですが、
短編ではそのようなことはありません。
事件がすべて終了しての
参戦となるからです。
金田一の鮮やかな推理を、
噛みしめるように味わいましょう。

〔本書「花園の悪魔」「首」について〕
空前の横溝ブームが起きた
昭和50年代に、
単行本未収録の金田一もの短篇四篇を、
かき集めるようにして編まれた
作品集である本書「花園の悪魔」。
個性際だった作品群であることは
間違いありません。
本作品が表題作だったのですが、
平成8年には「首」と改題され、
新角川文庫で復刊しました。
杉本一文画伯の表紙装丁画も
一新されました。
平成8年段階では
トリミング・サイズでの掲載でしたが、
平成23年には
横溝正史生誕百十周年記念として
フルサイズ版が登場しています。
期間限定にして
希少価値を生み出すという出版社の
意地悪な商法には辟易させられます。

(2018.9.9)

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(2026.5.13)

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