当然のことながら、真犯人は別にいます。
「蜃気楼島の情熱」(横溝正史)
(「びっくり箱殺人事件」)角川文庫
「蜃気楼島の情熱」(横溝正史)
(「人面瘡」)角川文庫
パトロン・久保銀造を
訪ねた金田一は、
銀造の友人・志賀泰三の
屋敷に招かれる。
泰三はアメリカ帰りの資産家で、
瀬戸内海の小島に
竜宮城のような
豪邸を建てていた。
その夜、泰三の妻・静子が
何者かによって殺害される。
犯人は…。
横溝正史の味わい深い短篇です。
やや説明を
付け加えなければなりません。
泰三は20年前、アメリカで
最初の妻・イヴォンヌを
同じように失っています。
その際、泰三自身に
嫌疑がかかるのですが、
真犯人は友人の樋上四郎でした。
その樋上はすでに刑期を終え、帰国し、
泰三の元に身を寄せていたのです。
また、泰三は直前に妻が不倫をしていて、
お腹の子は
その相手が父親であることを知らされ、
激昂していました。
犯人は…。
【主要登場人物】
志賀泰三
…豪邸の主。米国帰りの資産家。
志賀静子
…泰三の妻。村松医院の元看護婦。
樋上四郎
…泰三の友人。約二十年前に泰三の
当時の妻を殺害し受刑する。
志賀家の居候。
村松滋
…故人。静子のかつての恋人。
右目は義眼。
村松恒…泰三の親戚。滋の父。医者。
村松安子…恒の妻。
村松徹…恒の長男。
村松田鶴子…恒の長女。
久保銀造…金田一のパトロン。
磯川常次郎…岡山県警警部。
金田一耕助…私立探偵。
20年前の事件同様に樋上なのか、
それとも怒りに身を任せての
泰三の犯行なのか。
そこが本作品の肝なのですが、
当然のことながら、
真犯人は別にいます。
本作品の読みどころ①
現場には限られた人間
屋敷は孤島の中です。
そして屋敷には
殺害された静子のほかは、
泰三、銀造、金田一、樋上、
そして船の運転手として同行した
親戚の村松徹、
後は女中だけなのです。
どう考えても犯人は泰三か
樋上以外に考えられないのですが、
その謎を金田一が
見事に解き明かします。
このトリックが読みどころの一つです。
本作品の読みどころ②
村には怪しげな面々
海をはさんだ村には、
親戚の村松家の4人がいるのですが、
全て怪しい面々です。
当主で医者の恒と泰三は
これまでももめています。
妻・康子は強欲。
長男・徹はまともそうですが、
長女・田鶴子は品がなく高慢。
加えて病死した次男・滋は
静子とかつて交際していた相手であり、
泰三との結婚後も静子と
不倫を続けていたのだというのです。
死者も含めて怪しすぎます。
本作品の読みどころ③
岡山おなじみの顔ぶれ揃い踏み
岡山での事件といえば磯川警部。
そこに「本陣殺人事件」以来の
登場となる久保銀造。
岡山ならではの顔ぶれです。
都会と異なり、
自然の情緒溢れる地での事件です。
おどろおどろしさも
東京での事件以上です。
金田一の名推理で
事件は解決するのですが、
志賀泰三は若くして
アメリカの地で妻を事件で失い、
今また最愛の妻を
故郷日本で失うのです。
事業で成功しても
愛を得ることはできなかった男の悲哀が
強烈です。
(2018.9.10)
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