金田一耕助の事件簿044
横溝お気に入りのシチュエーションやトリック
「霧の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫
霧の夜、宝飾店で
女が店員を刺し殺し、
宝石を奪うという事件が起きた。
犯人が見つからないまま
第二の事件が起きる。
連れ込み宿で男が殺され、
その現場に盗品の宝石が
落ちていたのだ。
しかしなぜか被害者の衣類が
消えていた…。
ドイルの名作短編集
「シャーロックホームズの冒険」を
意識した表題なのでしょう、
横溝正史の短編集
「金田一耕助の冒険」の冒頭の一篇です。
【事件簿File-044「霧の中の女」】
〔事件発生〕
昭和31年10月(東京)
〔依頼人〕
該当なし(等々力警部への捜査協力)
〔捜査関係者〕
河本警部補
…所轄暑捜査主任。
山田刑事
…所轄暑刑事。犯人逮捕のため女装。
等々力警部
…警視庁捜査一課警部。
柳井先生…監察医。
〔事件関係者〕
村上ユキ
…「サロン・ドウトンヌ」ホステス。
ペンキ塗りたてのポストに
抱きついたことから容疑を受ける。
子が病気で金が必要。
村上謙治
…ユキの夫。S駅の手荷物一時預かり係。
島田アキ子・花井ラン子・江藤キミ子
…「サロン・ドウトンヌ」ホステス。
雪枝
…「サロン・ドウトンヌ」マダム。
川崎和子
…宝飾店「たから屋」店員。
牧野康夫
…「たから屋」店員。
万引き女に殺害される。
長谷川善三
…生命保険会社専務。女遊びが得意。
宇野達彦
…善三の秘書。伯父が親会社の重役。
毒舌で嫌われ者。
鉄火のテッちゃん…男娼。
本作品の読みどころ①
怪しい女は実は
ミステリーはもちろん
犯人捜しが読みどころです。
この短編集全てが「~の中の女」で
タイトルが統一されています。
本作品も怪しい女が何人か登場します。
冒頭でペンキ塗り立てのポストに
ぶつかって、コートに赤いペンキが
ついてしまったという
バーのホステス・ユキ。
なにやら怪しげな電話をかけ、
誰かを脅迫しようとしている
マダムの雪枝。
でもやはり真犯人は
別に存在しています。
果たして…?
本作品の読みどころ②
ちぐはぐな二つの事件の繋がりは
第一の事件は宝石店での
開き直っての殺人。
第二の事件は連れ込み宿に
金持ちの男を引っ張っての
金目当ての殺人。
どことなくタイプの異なる
事件なのですが、
それらの関連はどうなっているのか?
金田一の謎解きが光ります
(やや強引な結びつけなのですが)。
本作品の読みどころ③
犯人に対して罠を張る金田一
金田一と等々力警部が
最後は真犯人を罠にかけ、
事件は解決します。
「逮捕状を取れよ」だとか
「違法捜査では?」などと
野暮なことは考えるべきでありません。
これが一番盛り上がるのです。
さて、本作品(に限らないのですが)は、
いくつかのシチュエーションや
トリックが、同じ金田一ものの
「花園の悪魔」と酷似しています。
一つは第二の殺人の連れ込み宿。
いくつかの離れがあって、
それらは竹藪で囲まれています。
葉擦れの音によって、
室内の音が外部へ漏れても
聞き取られにくいという設定は、
殺人事件の現場として
使いやすいのでしょう。
もう一つは、
被害者の衣服が紛失している点。
これはアクシデントが生じたために
犯人がやむを得ず行った行為であり、
ここから金田一が
解決のヒントを得ているのです。
その衣服が、
別の場所に放置してあった
トランクから発見された点、
さらにはそのトランクを
偶然蹴飛ばしたことから発覚した点も
まったく同じです。
横溝はおそらく気に入った
シチュエーションやトリックを、
何度も使い回したり
組み合わせたりしながら
作品を創り出していったのでしょう
(そうでなければこれだけの作品を
生み出すことは不可能です)。
そうした分析もまた、
横溝作品を読む上での
楽しみの一つです。
〔本書収録作品一覧〕
「霧の中の女」
「洞の中の女」
「鏡の中の女」
「傘の中の女」
「鞄の中の女」
「夢の中の女」
「泥の中の女」
「柩の中の女」
「瞳の中の女」
「檻の中の女」
「赤の中の女」
(2018.9.10)
〔追記〕
2022年6月、
ついに本書が復刊となりました。
昭和51年に文庫初版が刊行された後、
昭和54年には二分冊、
それも杉本一文装丁ではなくなり、
大変残念な気持ちでいました。
復刊というよりは、今回40数年ぶりの
杉本一文装丁画の復活が
喜ばしいことです。
アイ・キャッチ画像を
新版と変更しました。
旧版は下の通りです。
新版はデザインが
マイナー・チェンジしています。
(2022.6.16)
【横溝正史:金田一耕助の事件簿】
【復刊!横溝正史】
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