「木乃伊の花嫁」(横溝正史)

顔のない死体、暗躍する骸骨男

「木乃伊の花嫁」(横溝正史)
(「青い外套を着た女」)角川文庫
(「由利・三津木探偵小説集成3」)
 柏書房

恩師鮎沢博士の娘・京子との
結婚を控えた鷲尾のもとに
脅迫状が届く。
「結婚は取りやめにしろ、
京子は木乃伊の花嫁だ」と。
鮎沢邸で行われた結婚式の最中、
花嫁の白無垢の裲襠に
真っ赤な血潮が滴る。
天井裏に何者かが潜んでいる…。

横溝正史
由利・三津木シリーズの短篇作品です。
今回は由利先生のみの登場で、
三津木俊助はお休みです。
「木乃伊の花嫁」という
仰々しくもおどろおどろしい
タイトルですが、
ミイラが登場するわけではありません。
今回の化け物キャラは
ミイラではなく骸骨男なのです
(似たようなものですが)。

【事件簿17 「木乃伊の花嫁」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
〔事件関係者〕
鮎沢医学博士…大学教授。
鮎沢京子
…鮎沢博士の娘。
 十年間、フランスにいた。
鷲尾医学士
…鮎沢博士の愛弟子。京子の婚約者。
玉城夫人…恭子と鷲尾の結婚の介添人。
緒方代助
…鮎沢博士の愛弟子。京子をめぐって
 鷲尾と対立、行方をくらましていた。
骸骨のような化け物
…信州湖畔の鮎沢家別荘周辺に出没。
 「眼も鼻も唇もない、骸骨のように
 まっしろな顔」の男。
〔事件の概要〕
①結婚式当日
・緒方からの脅迫状と
 木乃伊の紙人形が鷲尾に届く。
・京子の花嫁衣装などにトラブル続出。
・式の最中、天井より血潮が落下、
 天井裏に緒方らしき人物の死体発見。
②一か月後、信州湖畔にて(11月)
・京子の過ごす別荘周辺で、
 尾方らしき人物の気配。
・湖に胸に短刀を刺された
 花嫁人形漂着。
・骸骨男出現。
③信州湖畔の洞窟探検(鮎沢父娘・鷲尾)
・鮎沢、洞窟内の竪穴に落下。
・骸骨男、鷲尾を竪穴に突き落とす。
・骸骨男、京子を襲撃。
・由利、京子を救出。

本作品の味わいどころ①
顔のない死体、暗躍する骸骨男

天井裏から発見された死体は、
脅迫状を出した
緒方であると考えられました。
緒方と鷲尾は
鮎沢博士の愛弟子どうしであり、
しかも親友だったのです。
しかし、十年ぶりにフランスから
帰国した京子の美しさが、
二人の関係を破壊してしまいました。
二人は京子をめぐって争ったのですが、
京子は鷲尾に心を引かれ、
緒方は身を引く形で
行方をくらましていたのです。

緒方は自らの命と引き換えに、
鷲尾と京子の結婚を妨害したのですが、
事件は謎に包まれたままです。

天井裏にあった緒方の死体は、
見るも無惨に顔が焼けただれていて、
あたかもミイラのように見えたのです。
自殺を決行するのに、
なぜ顔を焼く必要があったのか?
そのような人物が
なぜ目撃されもせずに
天井裏に潜むことができたのか?
そして家人に気づかれずに、
どうやって京子の花嫁衣装に
細工をすることができたのか?

そもそも顔が焼けただれた死体は、
横溝先生得意のいわゆる
「顔のない死体」です。
死体ははたして緒方本人だったのか?
それとも死体は別人であり、
緒方は生きているのか?
そうした謎に輪をかけるように、
死んだはずの尾方らしき人物が
骸骨男として諏訪湖畔に出没、
鷲尾と京子を襲うのです。
骸骨男は緒方なのか?
それとも別の誰かなのか?
この、顔のない死体の謎こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
超人的なタイミングの由利先生

信州湖畔で鷲尾と京子が
骸骨男に遭遇した直後、
絶妙なタイミングで登場し、
二人に自己紹介する由利先生。
そして二人が洞窟内で襲撃されたとき、
またしても神業的タイミングで現れ、
窮地を救った由利先生。
由利・三津木シリーズを知らない方が
読まれた場合、犯人は
由利先生ではないかと思うくらいです。

戦後の金田一耕助とは異なり、
戦前の探偵・由利麟太郎は、
人知を超えた才能を
持っているかのように描かれています。
本格的謎解きとしての探偵像ではなく、
あくまでも筋書き優先、
エンターテインメント重視の
探偵スタイルなのです。
この、超人的なタイミングで
事件に関わる由利先生の姿こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
謎を解き明かす「木乃伊の花嫁」

超人的タイミングで
二人の窮地を救った由利先生ですが、
その後の謎解きも神がかり的早業です。
緒方が鷲尾に送った紙人形
「木乃伊の花嫁」の秘密を発見し、
事件の真相を見事に解き明かすのです。
詳しくは読んで
確かめていただくしかないのですが、
意外な人物が犯人であり、
その動機もやはり意外なものなのです。
本作品における登場人物は
きわめて少なく、犯人を探すのは
たやすくできそうなのですが、
ミスリードを誘う罠も
仕掛けられており、
たどりつくのが困難な状況と
なっているのです。
この、巧妙に隠された事件の深層こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

花嫁の裲襠の袖の糸が
抜かれてあったり、
櫛や簪が全て折られてあったりと、
結婚式当日には
曲者がすでに屋敷内に侵入している
気配が濃厚に漂う冒頭部、
鷲尾に送られてきた怪異な紙人形
「木乃伊の花嫁」といった
恐怖をあおるアイテム、
諏訪湖畔とそこにある洞窟という
後半部の舞台設定など、
戦後の横溝の作風の
「おどろおどろしさ」は、
本作品においても
十分に現れているのです。
由利・三津木シリーズの傑作短篇を、
ぜひご賞味ください。

(2018.9.11)

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