ちょっと待って下さい、押川さん
「黄金の腕輪 流星奇談」(押川春浪)
(「押川春浪幽霊小説集」)国書刊行会

「黄金の腕輪 流星奇談」(押川春浪)
(「少年小説大系第2巻押川春浪集」)
三一書房

「黄金の腕輪 流星奇談」(押川春浪)
青空文庫

年末年始を別荘で過ごしていた
松浪伯爵一家のもとに、
伯父の玉村侯爵から
光輝燦爛たる黄金の腕輪が届く。
「年の暮れに最も勇ましき
振る舞いをした者に
この腕輪を贈る」という
伯父侯爵の手紙とともに。
伯爵の三人の娘は困惑する…。
「最も勇ましき振る舞い」を
求められるのは
男の子ではありません。
松浪伯爵の三人の娘たちなのです。
宝物はたった一人に与えられる、
その条件が「最も勇ましき振る舞い」。
普通女の子に求められるのは
「最も優しい」だとか
「最も貞淑な」だと思うのですが、
大正の時代、
女の子に勇敢さを求めたのです。
さすが押川春浪。
その勇気の見極めをするのが父伯爵。
で、その試験内容が、
大晦日の真夜中に
「流星の落ちた森へ一人で行き、
不思議なものが落ちていないか
確かめること」。
ちょっと待って下さい、
成人男性ならいざ知らず、
うら若き娘たちに
真夜中の森林探検を課す父親。
危険でしょう、夜の森の中、
何かあったらどうするの?
この時代、変質者などはいなかったの?
そもそも大晦日の真夜中、
寒くありませんか?
そんなことお構いなしの設定です。
さすが押川春浪。
それでも三人の娘はお宝ほしさに
一人ずつ夜の森へと出かけていきます。
こういう場合、
ミッションに成功するのは
末っ子と相場が決まっています。
お約束どおり下の妹が
勇気をふるって森の奥へと突き進み、
そこにあった不思議な小箱を
持ち帰るのです。
その結果、末娘が黄金の腕輪に加えて
その小箱の中に入っていた
金銀宝玉の装飾品数十種まで
手に入れてしまうのです。
「明日はお正月!露子(末娘)は
何の様に楽しい事であろう。」で
物語は結ばれます。
ちょっと待って下さい、押川さん。
それ、お宝をもらえなかった
長女次女と三女の仲、
険悪になりませんか?
いや、二人と父親・伯父の間だって
気まずくなるでしょう。
三女露子さん、
お宝をお姉さんたちに分けないで
幸せ独り占めでいいのですか?
いいのです。
そんな細かいことは気にせず、
純粋にエンターテインメントに徹する。
さすが押川春浪。
今読むと滑稽な部分ばかり
目につくのですが、
明治大正期のお堅い文壇にあって、
迷うことなく大衆エンタメ文学を
書き続けた押川春浪。
遺した作品の数は多いのですが、
すべて絶版中です。
ちくま文庫あたりから
「押川春浪集成」が出版されたら
即買ってしまうのですが、
出ないでしょうね。
〔青空文庫〕
「黄金の腕輪 流星奇談」(押川春浪)
(2018.10.6)
〔追記〕
それがちゃんと出ていたのです。
「明治探偵冒険小説集3 押川春浪集」
(2021.1.1)
〔追記〕
本作品、紙媒体でも読めました。
三一書房刊
「少年小説大系第2巻押川春浪集」です。
先日入手しました。
ただし絶版中ですので、
中古をあたるしかありません。
〔「少年小説大系第2巻押川春浪集」〕
海底軍艦
幽霊島
塔中の怪
空中大飛行艇
続空中大飛行艇
黄金の腕輪
人外魔境
幽霊小家
怪人鉄塔
樹上の侠士と美人
頑強壮漢
〔関連記事:押川春浪作品〕
(2022.2.7)
〔追記〕
なんと、新刊本で出版されました。
感動です。
アイキャッチ画像を変更しました。
〔「押川春浪幽霊小説集」〕
万国幽霊怪話
幽霊旅館
黄金の腕環
南極の怪事
幽霊小家
付録一 酒に死せる押川春浪
付録二 余の見たる押川春浪
付録三 押川春浪関係年譜
〔押川春浪の本はいかがですか〕
(2023.8.27)

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