腹の中に虫を飼っておこう!
「酒虫」(芥川龍之介)
(「芥川龍之介全集1」)ちくま文庫

中国のある地方に、
部類の酒好きの富豪がいた。
ある日、僧が訪ねてきて
酒飲みを治してやると言ってきた。
その僧によれば腹に「酒虫」がいる、
これを除かないと
病は治らないのだという。
富豪はその僧に
「酒虫」駆除を依頼する…。
読書サイトに
こんなことを書くのも何なのですが、
私は酒が大好きです。
正確に言うとビールが大好きです。
もっと正確に言うと
ヱビスビールが大好きです。
毎晩ヱビスビール大瓶2本飲まないと、
一日が終わった気がしません。
というよりも、
ヱビスビール大瓶2本飲むために
私は一日仕事をしているようなものです。
そんな私がどきりとした小説が、
芥川の「酒虫(しゅちゅう)」です。
治療の末、富豪の口から
「酒虫」が飛び出します。
そして彼はその日から
酒を飲めなくなるのです。
ところが彼の健康はさらに悪化し、
資産も傾いてしまったのです。
体長3寸(約10cm弱)、
眼も口もある赤い山椒魚のような酒虫。
果たして酒虫は
本当に病気の元だったのか?
芥川は3つの答えを用意しています。
①実は福の神。
福の神を追い出してしまったから
不幸になった。
②酒虫はやっぱり災いのもと。
酒虫のせいで酒を飲み過ぎたから
健康が悪化した。
追い出しても手遅れだった。
③酒虫は彼そのもの。
酒虫=彼。
酒虫を取り除けば彼は彼でなくなる。
芥川の考えは
おそらく③で間違いありません。
たとえ弊害があることであれ、
その人にとって
なくてはならないことを取り除けば、
もはやその人はその人でなくなる、
ということでしょう。
わずか十数頁の短編小説に、
鋭い示唆をしっかり盛り込み、
読み手を納得させます。
「芋粥」に代表される、
初期の芥川得意の手法です。
さて、我が身を振り返ると、…。
私の腹中にも「酒虫」はいそうです。
それもヱビスビールのラベル宜しく
金色の「酒虫」が。
それだけでなく、「本虫」
「クラシックCD虫」「オペラBlu-ray虫」
「ウルトラマンのフィギュア虫」
「one-piece虫」…。
ありとあらゆる虫がお腹の中に
巣食っているのではないかと
不安になります。
それらをはき出したら、
自分は自分ではなくなる…。
そうだ、
しっかり腹の中に飼っておこう!
(2018.10.17)

【青空文庫】
「酒虫」(芥川龍之介)