「本州横断 癇癪徒歩旅行」(押川春浪)

要するに「最近の若い者は軟弱でいかん!」

「本州横断 癇癪徒歩旅行」(押川春浪)青空文庫

「この奮励努力すべき世の中で、
 ゴロゴロ昼寝などする
 馬鹿があるかッ!」
「怠惰者や意気地無しが
 ドシドシ死んでしまえば、
 穀潰しの減るだけでも
 国家の為に幸福かも知れぬ」

この過激で強気な文言は、
かの国の大統領の暴言でもなく、
右翼の街頭宣伝車の唸り声でもなく、
明治の快男児・押川春浪大先生の
本作品の冒頭の言葉です。

「海底軍艦」「世界武者修行」と同じ、
豪快かつ珍妙な
SF冒険小説の一つかと思い
読み始めました。さにあらず。
本州を徒歩で
横断しようとする冒険隊の
見送りをしようとした著者が、
そのまま帰るに帰られず、
途中まで同行した
珍道中の記録なのです。

それにしても全文過激で強気です。
「大体の政治その宜しきを得ず、
 中央政府及び地方行政官は、
 徒らに軽佻浮華なる
 物質的文明の完成にのみ焦り、
 国家の生命の何者であるかを忘れ、
 一も偉大なる精神的感化力をば、
 彼等に与うるの道を
 知らざる為である事は
 疑いを容れない。」

所々に当時の政権名が
実名で登場します。
こんな作品を発表して、
当時の為政者は一体
どんな反応を示したのか
知りたいところです。

押川はさらに返す刀で
民衆をも一刀両断にします。
「ブラブラ遊んで暮らすのを
 誇りとしている
 一部上流社会の奴原を初めとし、
 ろくろく食う物も食えぬくせに、
 汗を流して努力する事を好まぬ
 下等人士に至るまで、
 惰眠を貪りつつ
 穀潰しをやっておる者共は、
 今日少くとも日本国民
 三分の一位はあるであろう。
 願くは何か峻烈なる刺激を与え、
 鞭撻激励して
 彼等を努力せしめたならば、
 日本の生産力もまた必ず
 多大の増加を見る事は
 疑いを容れまい。」

肝心の道中記はどうかというと、
雨中の登山の艱難辛苦を
綴ってあるだけ。
全文のほとんどは
無能な政治機構への批判と
愚かな民衆への叱咤激励、
そして
荷物持ち兼道中案内として雇った
若者二人への悪態で占められています。

要するに
「最近の若い者は軟弱でいかん!」
というものなのですが、
平成の時代ならいざ知らず、
明治の御代でもそうだったのです。
時代とともに
本当に人間が堕落してきているのか、
はてさて年寄りはいつの時代も
若者に対しての見方が
厳しいだけなのか、
一体どちらなのでしょう。

内容も表現も
明治の時代だから許された過激な随筆。
一読の価値ありです。

※なお、押川が離脱した旅行隊の
 その後の道中を記した続編
 「本州横断 痛快徒歩旅行」もあります。
 こちらは旅行隊の井沢衣水が書き、
 押川が補作しています。

(2018.10.20)

【青空文庫】
「本州横断 癇癪徒歩旅行」
(押川春浪)
「本州横断 痛快徒歩旅行」
(井沢衣水・押川春浪補)

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