しかし、あばたもえくぼ
「トム・ソーヤーの探検」
(トウェイン/大久保康雄訳)
(「トム・ソーヤーの探偵・探検」)
新潮文庫

トム、ハック、そしてジムの3人は、
怪しげな博士のつくった気球で、
博士とともに
イギリスへ向けて旅立つ。
途中、狂った博士が気球から落下、
3人はそのまま旅を続ける。
3人は果たして無事ロンドンに
たどり着けるのか…。
とまあ気球による冒険小説なのですが、
この気球がくせ者です。
「すばらしく大きなもので、
翼のようなものや
しっぽのようなものや、
わけのわからない
いろいろなものがついていて、
絵などで見ていたものとは
まるで形がちがっている」。
時代を100年以上も先取りした
アヴァンギャルドなデザイン。
「ボタンのおし方ひとつで、
上下、前後、左右、
好きな方向に、好きな早さで、
進むことができる」。
現代の最新ヘリにも負けない
機動性と高速性能。
3人は大西洋を渡り、
イギリスに着いたと思いきや、
そこは何とアフリカ。
サバンナでライオンと一戦を交え、
サハラ砂漠で蜃気楼の幻惑と闘い、
アラビアン・ナイトの幻想に酔い、
スフィンクスの巨大さに驚愕する。
これも読み終えてから気付きました。
「トム・ソーヤーの探偵」が
ドイルのパロディなら、本作品は
ヴェルヌのパロディなのでしょう。
「八十日間世界一周」が
1872に年刊行なら、
本作品は1894年出版。
「トムの探偵」と「トムの探検」。
両作品ともパロディなのか、
当時の他国の流行作を意識した
真面目な創作なのか、
今ひとつ判然としませんが、
やはり完成度は
お世辞にも高いとは言えません。
しかし、あばたもえくぼ。
トウェイン・ファンなら、
これも貴重な作品です。
さて、解せないのは、
訳者・大久保氏のあとがきです。
出版年を「トムの冒険」1876年、
「ハックの冒険」1883年、
「探偵」「探検」ともに
1877年としています。
すると、
①トム②探偵・探検③ハックの順に
なるはずです。
しかし、探検・探偵両作品の冒頭に、
「ジムを救い出し、
トムが足を撃たれた事件のあと」
という件があり、
それを「トム・ソーヤーの冒険」
参照としていますが、
それは明らかに「ハックの冒険」での
出来事です。
したがって両作品とも、
「ハック」の後日談でなければ
ならないはずです。
他の資料を調べると、
「探偵」1896年、「探検」1894年。
訳者の大久保氏が
大きな勘違いをしていたのか、
トウェインの原文が
そのようになっていたのか、
それとも当時は資料に乏しかったか。
新訳での登場を期待するのは
難しいかも知れません。
だとすると、本書の存在価値は
高いものと思われます。
古書店、もしくは図書館でどうぞ。
(2018.10.23)
