語られていない20年間に、思いを馳せてしまいます
「二十年後」(O.ヘンリー/芹澤恵訳)
(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」)
光文社古典新訳文庫
警邏中の巡査は、
閉店中の店の前に立つ男に
話しかける。
男は約束を
果たしに来たのだという。
ボブというその男は、
親友・ウェルズと
20年後に再会することを
この店の前で約束したのだという。
そして今日が
20年目のその日だと…。
「最後の一葉」「賢者の贈り物」同様、
O.ヘンリーの代表作であり、
世界中で愛されている一篇です。
有名な作品ですので、
ネタばれも問題がないでしょう。
巡査が立ち去ったあとに
現れたウェルズは偽物であり、
西部のお尋ね者・ボブを逮捕します。
警官はボブに
本物のウェルズからの手紙を渡します。
「きみを逮捕することは、
ぼくにはどうしてもできなかった。
だから、いったん署に戻り、
私服の者に
その仕事を頼んだというわけだ。」
人生の皮肉が凝縮したような作品です。
兄弟同様に育った二人が、
一方は追われる者となり、
もう一方はそれを追う者になっていた。
20年の歳月の大きさに驚かされます。
もっとも、ボブは一発勝負で
財産を作ることを夢見て
荒くれ者の集う西部へ
流れたのですから、
法に触れる重大行為の一つや二つ、
あって当然であり、
ウェルズもまた堅実な生き方を求め、
かつ地域を愛していたのですから
警察官となっていたのも
当然と言えば当然です。
二人の立場の違いは必然的であり、
義理堅いウェルズが直接
逮捕できなかったこともまた必然的。
すべては運命で決まっていたとしか
いいようがありません。
最後に登場する
ボブに宛てた短い手紙には、
書かれざるウェルズの
苦しい心境が読み取れるようです。
20年前の約束を忘れずに履行する彼は、
職務にも誠実であったことが
予想されます。
指名手配犯を
その場で逮捕することもできず、
かといって旧友を見逃すこともできず、
ギリギリの線が
同僚警官への依頼だったのでしょう。
ボブにも同情してしまいます。
描かれてはいませんが、
指名手配されるほどですから
よほどあくどいことも
してきたのでしょう。
しかし、20年前の約束を守るという
ただその一点においては
ウェルズと同等に誠実だったのです。
彼にとってはそれが裏目に出た形です。
読み返すたびに、
本文では語られていない、
ウェルズとボブの20年間に、
ついつい思いを馳せてしまいます。
(2018.10.26)
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