「押川春浪 青空文庫5作品」(押川春浪)

SFです。スピードです。エンタメです。

「押川春浪 青空文庫5作品」
(押川春浪)青空文庫

明治の作家の作品となると
堅くて重いイメージが
どうしてもつきまといます。
森鴎外、夏目漱石、
有島武郎、国木田独歩、…。
読み手が真剣勝負を
挑まれているような気持ちになり、
自然と身構えてしまいます。
でも今年青空文庫で出会った
押川春浪は違いました。

「海島冐檢奇譚 海底軍艦」
日本への帰国の途についた
「私」の乗った船は、
インド洋で海賊船の襲撃を受け、
沈没する。
「私」が漂着した無人島には、
いるはずのない
日本人の集団があった。
彼らは秘密裏に
新型潜水軍艦を
開発・建造していた…。

「月世界競争探検」
飛行船は始めその両翼を
静かに動かしながら
徐々に上昇しつつあったが、
次第にその速力を早めて来た、
秋山男爵は東の方へ、
雲井文彦は西の方へと
針路を取って進んで行く。…。

「黄金の腕輪 流星奇談」
年末年始を別荘で過ごしていた
松浪伯爵一家のもとに、
伯父の玉村侯爵から
光輝燦爛たる黄金の腕輪が届く。
「年の暮れに最も勇ましき
振る舞いをした者に
この腕輪を贈る」という
伯父侯爵の手紙とともに…。

「南極の怪事」
科学者モンテス博士の二人の娘が
拾ったビールの空き瓶の中には、
古い時代の手紙が入っていた。
それによると、
記録者は地球の果てに
流れ着いたのだという…。
手紙を記したのは
エスパニアの旅行家ラゴン氏。

「本州横断 癇癪徒歩旅行」
怠惰者や意気地無しが
ドシドシ死んでしまえば、
穀潰しの減るだけでも
国家の為に幸福かも知れぬ…。

SFです。
サイエンスフィクションの
先駆けなのです。
秘密基地で作られた戦艦、
飛行船による月世界探検、
3人の美人姉妹の暗闇肝試し、
有史前の王国が消えた南極大陸。
現代の科学的知見からすると
噴飯ものですが、
本邦空想科学小説の源流にして最高峰。
SF小説かくあるべしと
いわんばかりの内容です。

スピードです。
スピード感を重視しているのです。
細かい設定の矛盾など
いささかも気にとめず、
筆の勢いに任せたかのような
よどみない展開。
次から次へと
クライマックスを創出させ、
弛緩することなく続く筋書き。
プロローグから大団円まで
一気に読み通せる爽快感は
古くささを感じさせません。

エンタメです。
エンターテインメントに
徹しているのです。
血湧き肉躍る
スペクタクルロマンだったのでしょう。
ネットはおろか、
テレビもラジオもない時代です。
「本」は推察するに
当時のニュー・メディア。
一般大衆の娯楽の
最先端を走っていたものと思われます。

残念ながら2018年10月27日現在で
青空文庫に収録されている作品は
この5つだけ。現在編集作業が
行われているようなので、
順次登場するのでしょう。
楽しみはつきません。

(2018.10.27)

【青空文庫】
「海島冐檢奇譚 海底軍艦」(押川春浪)
「月世界競争探検」(押川春浪)
「黄金の腕輪 流星奇談」(押川春浪)
「南極の怪事」(押川春浪)
「本州横断 癇癪徒歩旅行」(押川春浪)

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