繰り出されるブラックユーモア
「五郎八航空」(筒井康隆)
(「日本文学100年の名作第7巻」)
新潮文庫
「五郎八航空」(筒井康隆)
(「傾いた世界」)新潮文庫
取材のために記者とカメラマンが
無人島を訪れる。
船で来たのだが、
台風接近のため
迎えの船は来ないという。
明日まで東京に帰らないと
馘首になるのだが、
地元民によると、
「五郎八航空」なる軽飛行機が、
迎えに来るはずという…。
筒井康隆という作家については
好き嫌いがはっきり
分かれるのではないかと思います。
学生時代、
熱烈なファンが友人にいましたが、
私は得意ではありませんでした。
独特のブラックユーモアが
肌に合わなかったのです。
でも、それは実は
食わず嫌いのようなものでした。
日本文学100年の名作を集めた
アンソロジーである本シリーズ。
第7巻の冒頭に収められている
筒井康隆作の本短編は、
「五郎八航空」という
タイトルが示すとおり、
怪しさ満点です。
軽飛行機が島に到着するやいなや、
ブラックユーモアの連続です。
やって来た飛行機は
滑走路をオーバーランし、
二人がいる掘っ立て小屋
直前13cmでぎりぎり停止。
「乗らないうちから
飛行機事故で死ぬところだった」。
操縦していたのは五郎八ではなく、
その女房(無免許かつ赤子連れ)。
「乗るというのかい。
ねんねこで赤ん坊を背負った
百姓のおばはんが
思い出し思い出し操縦する飛行機に」。
離陸体制に入るも、
断崖絶壁になっている
滑走路先端でぎりぎりセーフ。
かと思いきや、
海面へと機体は落ち始める。
すんでの所で機体は上昇。
「さっき海の近くまで落ちた時は、
ちょっと危なかったのではないかね」
「ふつうならお陀仏だね」。
飛行を続けるも速度は出ない。
尋ねられると
「失速っていうと、
きりもみになって落ちる、
あれのことかね。
あれなら最近は、とんとならない」。
途中で赤ん坊が泣き出すと、
「ちょっと子供に乳をやる間、
誰かこの操縦桿
握っていてくれないかね」。
…万事この調子です。
挙げ句の果てにガス欠となり、
国道沿いのガソリンスタンドに
緊急着陸して給油する始末。
カメラマンは恐ろしさのあまり、
ここで降ります。
でも、
記者は一刻も早く東京に帰るため、
そのまま乗り続けます。
それが運命の分かれ道となりました。
結末にさらなるブラックユーモアが
用意されています。
読んでみてのお楽しみです。
五十を超えて、
ブラックユーモアもそれなりに
肌に合ってきた自分を発見しました。
やはり日本文学は奥が深い。
※「日本文学100年の名作第7巻」
収録作品一覧
1974|五郎八航空 筒井康隆
1974|長崎奉行始末 柴田錬三郎
1975|花の下もと 円地文子
1975|公然の秘密 安部公房
1975|おおるり 三浦哲郎
1975|動物の葬禮 富岡多惠子
1976|小さな橋で 藤沢周平
1977|ポロポロ 田中小実昌
1978|二ノ橋 柳亭 神吉拓郎
1979|唐来参和 井上ひさし
1979|哭 李恢成
1979|善人ハム 色川武大
1979|干魚と漏電 阿刀田高
1981|夫婦の一日 遠藤周作
1981|石の話 黒井千次
1981|鮒 向田邦子
1982|蘭 竹西寛子
(2018.11.3)
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