まさに19世紀末のアメリカのおとぎ話
「百万ポンド紙幣」
(トウェイン/三浦朱門訳)
(「百年文庫036 賭」)ポプラ社
「百万ポンド紙幣」
(トウェイン/堀川志野舞訳)
(絵:ヨシタケシンスケ)理論社
米国民の「私」は、
ある事故が原因で無一文のまま
ロンドンに流れ着く。そこで
二人の老人に呼び止められ、
百万ポンド紙幣を手渡される。
老人たちはその紙幣だけで
人間一人が一ヵ月間
生活できるかどうか、
賭けているのだという…。
19世紀末の英国における
100万ポンドが
現在一体いくらの貨幣価値があるか、
私には分かりませんが、
相当な額なのでしょう。
その高額紙幣1枚持っているだけでは、
一般店舗では崩すことができず
支払い不能になり、
銀行に持っていけば
出所を追及され逮捕される。
それ1枚貸しただけで
生活できるかどうか、
だから「賭け」が成立するのです。
それは100万ポンド紙幣を渡された
「私」も気付いていて、
それで買い物はできないと考えます。
しかし背に腹は代えられません。
思い切って使ってみると…、
それが「信用」の証となり、
ただで次から次へと
モノが手に入るのです。
ここで「私」が
思慮分別の足りない人間なら、
最後に全てを失って終わるのでしょう。
しかし「私」は、
紙幣はあくまでも借り物であり、
したがって手に入れたモノは
全て借財であることを意識しています。
結果としてその信用をもとに
20万ポンドの現金を得るのですから、
「私」はよほど
才覚に長けた人間なのでしょう。
ラストにはさらなる仕掛けがあり、
「私」は幸福を手に入れます。
日本には「わらしべ長者」という
昔話があります。
一本のわらしべから
大きな富を手に入れる話ですが、
こちらは虚構の富から
真実の幸福を得る筋書きです。
まさに19世紀末の
アメリカのおとぎ話です。
さて、現代日本ではどうでしょうか。
1億円紙幣は存在しませんが、
それと似たような(?)高額紙幣として
クレジットカードや
仮想マネー等があります。
残念ながら
クレジットカードや仮想マネーが
打ち出の小槌であると錯覚し、
カード破産や仮想マネー破産に
直面する若者の話も
少なからず聞こえてきます。
現代日本の若者(に限りませんが)は、
思慮分別も才覚もない
人間が多いのでしょうか。
そんな難しいことを考えなくとも、
本作品は十分に楽しめます。
マーク・トウェイン、
さすがアメリカ文学の父。
面白い小説とは
本作品のことをいうのでしょう。
〔「百年文庫036 賭」収録作品〕
(2018.11.9)
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