「皿型生き方」と「紙ひこうき型生き方」
「皿と紙ひこうき」(石井睦美)講談社文庫
陶芸家の小さな集落で育った
高校一年生・由香の日常は、
「かっこいい転校生が
やってくる」という噂で
急に騒がしくなる。
だが、
東京から来た転校生の卓也は、
いつまでも周囲と
距離をとり続けていた…。
学校で血まみれのウサギが、
それも連続して見つかるという
大事件が起きるのですが、
それ自体は中心人物とは
何も関係がありません。
由香は美男子転校生・卓也に
恋心を抱くのですが、
それすらも明確に
示されているわけではありません。
由香の周囲の友人や親類の在り方が
淡々と描かれているだけです。
実は登場人物それぞれの
「ふるさと」に対する考え方の違いが、
本作品の読みどころとなっています。
タイトルにある「皿」は、
陶芸の町であるふるさとで
生活するという生き方、
「紙ひこうき」は、
生まれた地にこだわらずに
自分の適性を生かせる場所に
自由に飛び立つという生き方を
表しているものと考えます。
由香は「皿型生き方」であり、
母や祖母のように
いつかは自分も一家の陶芸を
支えることを考えています。
押しつけられたのではなく、
ごく自然に、そう感じているのです。
それは由香の父や祖父の生き方であり、
そうした家業を受け継いでいくことを
自然なものとして感じられるのは、
家族の絆がしっかりと
結びついているからでしょう。
由香の憧れる先輩・植島もまた
同じ「皿型」です。
彼女は生まれついた町に
なんの不満も持っていない、
むしろ外に出たときに
自分がすり減っていくだろうと
考えています。
一方、由香の叔父と、
植島の恋人・高橋は
「紙ひこうき型生き方」です。
この狭い町には何もない。
特に自分を生かす場所がない。
だから外に出る。
ふるさとへのこだわりは
まったくありません。
高校生にとって、
卒業後の進路は一生を左右します。
ふるさとを大切にする
「皿型」人間がいなければ、
今騒がれている「地方消滅」は
現実のものとなるでしょう。
しかし自分を生かせる場が
ふるさとになければ
「紙ひこうき型」に
ならざるを得ないのも確かです。
どちらがいいと、
一言で決着がつくような
問題ではありません。
だからこそ、
子どもたちには中学生段階から、
高校卒業後の生き方を
少しずつ考えていって欲しいと
思っています。
そのためにお薦めしたい一冊です。
※血まみれのウサギの事件が
異様に生々しく、
この点が作品から
浮き上がって感じること、
公立高校でありながら
「転校生」という設定が
現実にそぐわないことなど、
違和感を感じる点もあるのですが、
「生徒文学」として
十分に価値ある作品だと思います。
(2018.11.12)