「コンビニ人間」(村田沙耶香)②

彼が感じている「生きにくさ」は

「コンビニ人間」(村田沙耶香)文春文庫

清潔なコンビニの風景と
「いらっしゃいませ!」の掛け声に
安らぎを見いだす
36歳未婚女性・古倉恵子。
ある日、婚活目的の
新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は
「恥ずかしくないのか」と
つきつけられる…。

昨日取り上げた本作品で、
主人公・古倉と対比して描かれる白羽。
35歳独身。
彼女なし・恋愛経験なし。
ここまでは古倉とほぼ同じです。
違うのは性別と、
IT関連での起業を夢見て就職せず、
アルバイトを転々とするも
長続きしないという職歴、
そして周囲の人間を見下し、
自分の失敗を
他人に責任転嫁している点です。
しかし、二人の違いは
それだけではありません。

古倉は周囲から
「普通でない」と見られていることを
理解していますが、
それ自体に困っているのではなく、
「普通でない」と見られることによって
生じる問題に
「困り感」を持っているのです。
一方、白羽は、
「普通でない」と
見られること自体を恥じていて、
世間から隠れることを望みます。
それは「隠遁」のような
高尚なものではなく、
「逃避」でしかありません。

古倉は世間の考える
「普通」になりたいとは望んでいません。
最後は自分の在り方に
自信を持って生きる決意を固めます。
一方、白羽は、
心の奥底で「普通」になることを
渇望しています。
コンビニ店員を見下したような言動は
その表れでしょう。

彼は古倉と異なり、発達障害の
度合いは少ないと思われます。
そのかわり、
自己肯定感・自己有用感を
感じることのできない人間なのです。

古倉のような
発達障害を抱えた子どもも
近年増えている(というよりも
正しく認識されてきていると
言うべきか)のですが、
彼のような
自己肯定感・自己有用感を
持てない子どもたちも
実はかなり多いのです。
周囲(とりわけ家族)から
十分に愛されていない、
十分に認められていない、
そんな子どもが多いのです。

古倉も白羽も、
どちらも現代に
「生きにくさ」を抱えた人間を
デフォルメして描かれた
二人なのです。
二人のような若者が
増えている現実を考えると、
本作品のような二人の男女の邂逅
(同年代の独身男女が
同居したのに性的交渉は全くない)は、
このあと現実に
起こりうるかもしれません。

高校生に薦めたい一冊です。
もしかしたら
自分の「生きにくさ」の原因に
気付く子どもがいるかも
知れないのですから。

(2018.11.26)

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