「双生児」(横溝正史)

はたして真実はどこにあるのか?

「双生児」(横溝正史)
(「怪奇探偵小説集続々」)双葉社
(「山名耕作の不思議な生活」)角川文庫
(「丹夫人の化粧台」)角川文庫
(「横溝正史ミステリ
   短編コレクション①」)柏書房

精神病学専門の博士の
研究室を訪れた「私」は、
ある女性の遺書を見せられる。
そこには双子の兄弟の
兄と結婚した女の、
恐るべき告白が書かれてあった。
「私が殺した男は、
私の夫なのでしょうか、
それとも
夫の敵だったのでしょうか…」。

横溝正史の初期の短篇作品です。
自ら命を絶った女性・「私」の
遺書に記されていた恐るべき殺人。
はたして「私」が殺したのは夫なのか、
それとも夫の敵なのか?
「私」を悩ませた疑念は、
そのまま読み手をも悩ませるのです。

〔主要登場人物〕
※本作品は額縁構造となっている。
(額縁部分)
「私」
…語り手。新聞記者。
青柳博士
…法医学・精神病学の権威。
 「私」にある女性の遺書を見せる。
(本編部分)
「私」(尾崎夫人・尾崎よし子)
…本編部分の語り手。
 遺書を残し自ら命を絶つ。
尾崎唯介
…双子の兄。「私」の夫。
山内徹
…唯介の双子の弟。
 生後すぐに里子に出された。

本作品の味わいどころ①
巧妙な入れ替わり、巧妙な殺害

由緒ある家に生まれた双子の兄弟。
しかし兄・唯介は嫡男として
家の財産をすべて相続し、
弟・徹は生後すぐに里子に出され、
豊かとは言えない生活を
送らざるを得なかった。
しかも徹と兄妹同様に育てられた「私」は
唯介の妻となった。
徹からすれば、唯介に
すべてを奪われたのと同じなのです。
しかも性格は陽の唯介に対して陰の徹。
唯介に強い敵対心と根深い嫉妬心を
持っているのです。
殺害して入れ替わる動機は
十分にあります。

ある日を境に夫・唯介の様子が変化し、
かつて兄妹として生活していたときの
徹のような雰囲気を
漂わせはじめたのです。
「私」からすれば、
恐怖以外の何ものでもありません。

唯介を殺害して巧妙に入れ替わった徹。
そしてその徹を巧妙に殺害して
病死に見せかけた「私」。
遺書にはそのスリリングなまでの応酬が
見事に描かれているのです。
この、両者による
巧妙な入れ替わりと殺人劇こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
「私」が生み出した、巨大な幻影

ところが末尾の額縁部分において、
青柳博士は
衝撃的な事実を打ち明けます。
詳しくは読んで
確かめていただくものとして、
簡単にいえば、尾崎夫人の遺書に
記された事実の信憑性に
疑義が生じることとなったのです。

尾崎夫人が殺害したのは
唯介と入れ替わった徹なのか、
それとも唯介本人だったのか?
「博士の言葉が本当か、
 尾崎夫人の遺書が事実か、
 それは今となっては
 神のみが知り給うところである」
という結びは、そのどちらも
ありうることを示唆しているのです。
この、夫人が生み出した
巨大な幻覚こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
もう一つの可能性、すべて妄想

つまり尾崎夫人の遺書は、いわゆる
「信じられない語り手」となるのです。
そうなると「夫人が見た幻覚」は、
「双子の入れ替わり」だけでは
済まなくなります。
尾崎夫人が唯介もしくは徹を
殺害したのかどうかも
怪しくなってくるのです。
確かに遺書の中には唯介もしくは徹を
どのように殺害したのか、
そしてどのように
病死と見せかけることができたのか、
まったくふれられてはいないのです。
「徹が復讐しにくるかもしれない」、
そして「徹が夫と
入れ替わっているかもしれない」という
恐怖から、
夫人が精神に異常を来したと
考えることもできるのです。
つまり「入れ替わり」もなければ
「殺害」もなかった、
その可能性が浮上するのです。
この、すべてが妄想に
すぎなかったという可能性こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

整理すると以下のようになります。
①「入れ替わり」あり・「殺人」あり
 →徹が唯介を殺害し、
  夫人が徹を殺害した
②「入れ替わり」なし・「殺人」あり
 →夫人が妄想の末、
  夫・唯介を殺害した
③「入れ替わり」なし・「殺人」なし
 →夫・唯介は病死。
  夫人は妄想の果てに自死
短篇作品でありながら、
細かな設定が施され、
限られたスペースで紹介するのが
難しい作品です。
そして横溝の初期作品の中でも
きわめて完成度の高い作品なのです。
はたして真実はどこにあるのか?
ぜひご賞味ください。

〔乱歩の同名作品との関わり〕
本作品と同名の作品が
乱歩にもあります。
やはり双子の兄弟が入れ替わるという
設定です。
兄を殺害して入れ替わった罪が発覚し、
死刑囚となった弟の
手記として綴られた乱歩「双生児」が
大正13年(1924年)発表であるのに対し、
横溝の本作品は昭和4年(1929年)。
乱歩版には、
「双子とはいえ、入れ替わった夫に
妻が閨房においても気づかないのは
不自然ではないか」という
弱点がありましたが、
その点を補強しつつ、
「入れ替わり」を不確定としたのが
横溝版「双生児」の特徴でしょうか。
そのコントラストが明確になるよう、
二作品を同時収録したアンソロジーが
双葉社から刊行された
本書「怪奇探偵小説集続々」です。
そのためこちらの表紙を
アイキャッチ画像に採用しました。

(2018.12.9)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2026.6.3)

〔「怪奇探偵小説集続々」双葉社〕
双生児 江戸川乱歩
双生児 横溝正史
踊り子殺しの哀愁 左頭玄馬
皺の手 木々高太郎
抱茗荷の説 山本禾太郎
怪船「人魚号」 高橋鐵
生きている腸 海野十三
呪われたヴァイオリン 伊豆実
天人飛ぶ 朝山蜻一
くすり指 今日泊亜蘭
壁の中の女 狩久
呪われた沼 南桃平
墓地 小滝光郎
マグノリア 香山滋
死霊 宮林太郎
 解説 鮎川哲也

〔「山名耕作の不思議な生活」角川文庫〕
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台
※なぜか電子書籍版では
 本作品と「二人の未亡人」が
 カットされています。

〔「丹夫人の化粧台」角川文庫〕
山名耕作の不思議な生活
川越雄作の不思議な旅館
双生児
犯罪を猟る男
妖説血屋敷
面(マスク)

白い恋人
青い外套を着た女
誘蛾燈
湖畔
髑髏鬼
恐怖の映画
丹夫人の化粧台

〔「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション①」柏書房〕

恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

〔横溝ミステリ:角川文庫〕

〔横溝正史ミステリ短篇コレクション〕

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