現実問題としての原子力発電所事故
「にげましょう 特別版」(河田惠昭)共同通信社

前回取り上げた本書は
「特別版」となっています。
実は2012年の「通常版」に、
内容を加えて2年後の2014年に
出版されたのが本書であり、
いわば「増補版」なのです。
では、付け加わった部分はどこなのか?
それは
「原子力発電所事故の場合」なのです。
もちろん基本は「逃げましょう」を
繰り返しているのですが、
それ以外の文言もここには見られます。
①基本スタンスとして、
「原子力発電所が事故です。
にげましょう。」

②具体的な危機には触れられず、
「様子がよくわかりません。
早く、遠くへにげましょう。」
③ここからが原発事故特有の
「身の守り方」になります。
「放射性物質が漏れています。
窓を閉め、換気扇を止めましょう。」

④そして、
「窓や外壁から
離れた部屋ににげましょう。」
⑤さらになんと、
「もしにげ遅れたら
外気が入りにくい部屋に
とどまりましょう。」
⑥その後、
「役所から指示が届いたら
それに従って、早くもっと遠くに
にげましょう。」
と続きます。

⑥の段階では、
放射能をまったく浴びずに
避難するということは
もはや不可能であるはずです。
原子力災害は、
他の自然災害とまったく異なるのです。
一つめは
具体的な危機がわかりにくいこと。
二つめは
逃げ遅れた場合は家屋の中に
止まるしかないということ。
三つめは
自家用車での避難が前提となること。
挿絵には車に乗り込んで
避難する様子が描かれています。
津波等では車での避難が
命取りになる場合があります。
しかし、目に見えない放射能に対して、
徒歩での避難は身体的にも時間的にも
極めて危険なのです。
私たちの国は、
ついに原子力発電所の事故に対する
避難についても
想定しなくてはならない国に
なってしまったのです。
当然です。
世界有数の地震列島の上に
原子炉を造ってしまったのですから。
3.11によって、
原子力発電所の安全神話は
完全に崩壊しました。
私たちのとるべき道は、
「一刻も早く原子力発電所を停止し、
その全てを安全に廃炉にする」か、
または
「最悪の事態を想定し、
現実的な事故対策と
大規模な避難訓練を実施しながら
原子力発電所を稼働し続ける」か、
そのどちらかを選択するしかないのです。
私には、
結論は前者一つだけしか考えられません。
しかし、そのどちらも選ばずに、
福島第一原発の事故を
なかったもののようにして
原発を安易に再稼働させようとする輩が、
この国にはまだまだ大勢います。
私たち一人一人が、
現実問題として原発事故を捉え、
その危険性を
正しく認識していく必要があります。
小学生中学生高校生、
そしてすべての大人たちに
強烈に薦めたい一冊です。
(2018.12.18)
