「殺人仮装行列」(山本周五郎)

周五郎人情もの作品の片鱗を垣間見ることができる

「殺人仮装行列」(山本周五郎)新潮文庫

破砕光線を開発する研究所で
機密漏洩が発生する。
研究員・柚木が、深夜に
忍び込んできた男を捕らえると、
それは同僚の島田だった。
その2日後、
研究所恒例の仮装行列で、
島田が被る予定の
仮面をつけた同僚が刺殺される…。
(「殺人仮装行列」)

謎の覆面女性歌手の
人気で沸く東都劇場に、
東京吸血団なる組織から
脅迫状が届く。
彼女を出演中に
誘拐するというのである。
支配人の息子・榊山宗一は、
前夜の帝国座での
女優誘拐事件をヒントに、
東京吸血団のトリックに挑む…。
(「覆面の歌姫」)

前回に引き続き、
周五郎少年文庫第2弾
「殺人仮装行列」です。
ここに収められている18編は、
春田龍介シリーズ以外の
探偵小説を集めたものです。
特定の探偵が活躍するものではなく、
それぞれの短篇で
探偵もしくはそれらしき人物が
事件を瞬く間に解決していきます。

作品は全て1936~1940年に
発表されています。
やはり周五郎がまだ十分に
名前が知れ渡る以前の作品です。
生活のために書いたであろう
作品と考えられます。
春田龍介シリーズ同様、
現代の尺度では評価できません。

一番大きな問題は、
春田龍介シリーズ以上に、
なお一層戦時色が
強く表れている点です。
ほぼ全編にわたって
悪事をはたらくのは外国人です。
そして外国人=悪者という図式が
意図的に盛り込まれています。
過度のナショナリズムが
前面に押し出されているのです。
この点は
現代では完全にアウトでしょう。

では、
本作品の読みどころはどこか?
それは作品のいくつかに
「人情」ものが
織り込まれていることです。

「化け広告人形」では、
十五年前に生き別れた息子に
名乗り出ることのできなかった
元犯罪者の父親が、
息子の罪を引き受けようとします。
そのからくりを解いた探偵は、
事が穏便に済まされるよう
手配するとともに、
親子が一緒に暮らせるように
取りはからいます。

「劇団笑う妖魔」では、
元刑事課長の父を持つ極道息子が、
名前を変えて潜り込んでいた
組織の犯罪の証拠を、
命を賭して父親に届けます。
最後の親孝行が叶い、
父子の思いが救われるのです。

「海浜荘の殺人」では、
父親を亡くした女性が、
本当に自分を愛している男が
誰かを知り、
幸せな結末を迎えます。

後の多くの周五郎人情もの作品の
片鱗を垣間見ることができる
作品なのです。
こちらもやはり、
大人が読んで楽しむべき
作品集となっています。

※収録作品一覧
 「殺人仮装行列」(1938)
 「猫目石殺人事件」(1937)
 「河底の奇蹟」(1939)
 「のらくら記者密偵を逮捕す」(1938)
 「覆面の歌姫」(1936)
 「特急第七号」(1937)
 「美人像真ッ二つ」(1938)
 「骨牌会の惨劇」(1938)
 「謎の紅独楽」(1938)
 「化け広告人形」(1937)
 「劇団笑う妖魔」(1938)
 「永久砲事件」(1939)
 「海浜荘の殺人」(1938)
 「天狗岩の殺人魔」(1938)
 「流星妖怪自動車」(1936)
 「出来ていた青」(1933)
 「火の紙票」(1940)
 「胡椒事件」(1938)

※この中で「出来ていた青」だけは
 内容的に大人向けです。
 いかがわしい男女関係が
 平然と書き表されていて
 「周五郎少年文庫」に入れるべき
 作品ではないのは明らかです。
 おそらくこの作品を収録できる
 短篇集を作り出せなかったので、
 やむなく入れたのだと思いますが、
 編集者の感覚を疑ってしまいます。

(2018.12.22)

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