運命はかくも過酷にのしかかる
「二都物語」(ディケンズ/加賀山卓朗訳)
新潮文庫

暴政を嫌って渡英した
亡命貴族・ダーネイと
放蕩無頼の弁護士・カートン。
二人の青年はともに、
無実の罪で長年投獄されていた
マネット医師の娘・ルーシーに
思いを寄せる。
折りしもパリでは革命の火が
燃え上がろうとしていた…。
筋書きは複雑であり、
粗筋を手短に紹介することの
困難な作品です。
世界で2億冊売れ、
映画化や舞台化もされていますので、
内容を知っている方も
多いと思われます。
文庫本のカバー裏には
「三人の運命やいかに?」と、
紹介文はやや陳腐な文言で
締めくくられているのですが、
三人の冒険譚などではありません。
押しも押されもせぬ主役は
ダーネイなのです。
彼は亡命した先の英国で、
スパイ容疑をかけられ、
刑に処される寸前で命拾いをします。
ルーシーとマネットの証言、
そして彼によく似た
弁護士カートンの助けがあり、
裁判で無罪を勝ち得たのです。
そこで彼は最愛の妻となるルーシー、
そして後に運命を分かち合う
友・カートンと出会ったのです。
その数年後、
ダーネイはフランス革命により、
かつての召使いの身に及んだ
危機を知り、渡仏します。
しかしそれは陰謀であり、
彼は囚われの身となるのです。
フランスへ駆けつけた
マネット父娘の証言により、
一度は釈放されたものの、
すぐさま別の罪で再び捕らえられます。
ダーネイは一族の
非人間的な振る舞いに嫌気が差し、
自らの貴族の身分を捨て、
亡命しました。
また、自分の身の危険を承知で、
フランスへ戻りました。
それが、
イギリスではスパイとして差別され、
フランスでは亡命貴族として
敵視されたのです。
自分に誠実に生きているだけなのに、
運命はかくも過酷に、
彼にのしかかるのです。
それでも彼は怖じ気づくことなく、
自分の運命と対峙します。
イギリスで四つ裂きの刑を
言い渡されそうになっても、
フランスでギロチン断首を
ちらつかされても、
義父マネットとの
運命的な因縁を聞かされても、
その姿は常に清々しいまでに
毅然としています。
舞台はフランス革命。
何が正しく何が正しくないか、
混沌とした背景の中で、
主人公である生年・ダーネイの誠実さが
鮮烈に描かれている、
英国の国民的作家・ディケンズの
傑作長編小説です。
(2018.12.27)
