「二都物語」(ディケンズ)②

登場人物すべての個性が際立っている

「二都物語」(ディケンズ/加賀山卓朗訳)
 新潮文庫

混沌とした背景の中で、
主人公ダーネイの誠実さが
鮮烈に描かれている古典的傑作、
と昨日書きました。
光っているのは
主人公だけではありません。
登場人物のすべての個性が
際立っている作品なのです。

まずはダーネイの運命に
深く関わることになるマネット医師。
18年もの間、無実の罪で
監獄に入れられていたという設定が、
後々生きてくるのです。
彼は収容生活を思い出すと、
記憶を失い、囚人として
過ごした人格が現れるという
不安定な精神状態なのですが、
正常時は毅然とした正義感です。
状況を正しく判断し、
適切な助言を周囲に与える。
医者というよりは
頼れるトップリーダー的存在として
描かれています。
物語の重心を支えるような
キャラクターです。

続いてマネット医師の娘・ルーシー。
既に父親は死んだと思っていたのに、
奇跡の再会を果たします。
その後は
失われた時間を取り戻すように、
献身的に父親を介抱していきます。
さらに、主人公ダーネイに
見初められて結婚、
幸せな家庭を築きます。
さらには、ダーネイの救出に
父親とともに奔走します。
若くて美しくて優しい。
三拍子そろっています。
花を添える女性は
長編小説に必要不可欠です。

物語の冒頭から終末まで、
最も登場しているのが銀行員ローリー。
公私の区別をきちんとつけ、
仕事は忠実に行う。
それでいて人情家。
マネット父娘をとことん支える
名脇役的存在です。

悪役だって個性的です。
ダーネイを付け狙うドファルジュ夫妻。
特に妻のテレーズ。
自分の一族を殺された恨みを、
末裔のダーネイだけでなく、
その妻子まで根絶やしにしようという
執念深さ。
粛清すべき相手の情報を
編み物の編み目として
記録するなど緻密。
かつマネット父娘の隠れ家に
単身乗り込むなど大胆不敵。
コテコテの悪女です。

こうした一癖も二癖もある
キャラクターが、
ダーネイの父・叔父に端を発する
因縁で結ばれてくるのです。
「個性の確立した登場人物たち」、
これは「魅力ある主人公」とともに
長編小説に欠かすことのできない
重要な条件なのです。

誰かを忘れてないか?
そうです、
「三人の運命やいかに?」の中の一人、
弁護士カートン。
決して忘れたわけではありません。
彼について紹介すると、
ネタバレが避けられないので…。
主人公に次ぐ、いや、
それ以上の存在感を、
最後の最後で発揮します。

(2018.12.27)

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