全編を貫くテーマ「人生に甦った」
「二都物語」(ディケンズ/加賀山卓朗訳)
新潮文庫

前回、前々回と取り上げた本作品。
何を描いた作品なのか?
フランス革命の描写が鮮烈であるため、
歴史小説の面から
語られることも多いのですが、
革命はあくまでも舞台背景です。
ダーネイとカートンの友情物語か?
それにしては二人の交流場面が
非常に少ないのです。
ルーシーに対する
カートンの秘めた愛の物語か?
であれば大長編にする必要はありません。
自己犠牲の崇高さを描いたのか?
そうではありますまい。
私は物語冒頭、
銀行員ローリーの、
受けた伝言に対する返答、
「人生に甦った」、
この一言こそが、
全編を貫くテーマになっていると
考えます。
主人公ダーネイ。
英国で1度、仏国で2度、
死の淵に立ちます。
それをマネット父娘や
カートンの尽力で三度危機を脱します。
言葉通りに「人生に甦った」のです。
また、彼は人間性を失った
自分の一族に絶望し、
貴族という身分を捨て、
祖国フランスを捨て、
その上でルーシーと
温かい家庭を築いたのです。
やはり「人生に甦った」のです。
医師マネット。
18年間無実の罪で収監され、
解放されるも
精神に異常を来します。
しかし娘ルーシーの
献身的な介護の結果、
人格を取り戻すのです。
「人生に甦った」と言えるでしょう。
それだけではなく、
愛する娘の成長した姿に出会える、
娘の良き伴侶にも巡り会える、
娘は結婚しても
一緒に暮らしてくれる。
18年の監獄生活に比べたら、
天国と地獄以上の開きがあるでしょう。
まさに「人生に甦った」のです。
弁護士カートン。
彼は自堕落な人間でした。
自分に自信を持てない。
ルーシーに思いを寄せるものの、
ダーネイに先を越される。
自分は陰でそっと見守ることを望む。
しかし、最後に…。
最終場面の手記は涙なくしては
読み進められませんでした。
彼もまた、「人生に甦った」…と、
信じたいと思います。
さて、
前々回は「魅力ある主人公」、
前回は「個性際立つ登場人物」という
キーワードで、
この作品の素晴らしさを書きました。
本当はさらに、
「伏線の張り方とその回収」、
「映像が目に浮かぶ情景描写」など、
本作品には傑作長編小説たる要素が
充ち満ちているのです。
それらの紹介については
機会を改めたいと思います。
(2018.12.28)
