いかに広く長く愛されてきた絵本であるか
「てぶくろ」(ウクライナ民話)
(ラチョフ絵/内田莉莎子訳)福音書書店

おじいさんが雪道で
落としていった手袋。
「ここでくらすことにするわ」と
最初に入り込んだのはねずみ。
そこへかえる、うさぎ、
きつね、おおかみ、
いのしし、くまが
次々に訪れる。
一つの手袋に
住みついた動物たち…。
このラチョフの絵、決して
メルヘンチックでもなければ
ユーモラスでもありません。
けっこうリアルなのです。
11ページ目のおおかみの顔などは、
どう見ても先に来た4匹を
食べに来たようにしか見えません。
それなのに、
読み聞かせすると
どうして子どもたちが
引き込まれるのでしょうか?

一つは
動物たちのネーミングの妙です。
ねずみは「くいんしぼねずみ」、
かえるは「ぴょんぴょんがえる」、
以下、「はやあしうさぎ」
「おしゃれぎつね」
「はいいろおおかみ」
「きばもちいのしし」
「のっそりぐま」。
声に出して読み上げると、
不思議にリズミカルで
耳に心地よいのです。
これは翻訳者・内田莉莎子の
センスの良さなのでしょう。

もう一つは
手袋の中に大型動物も含め、
7匹が入りこむという
有り得ない状況を
違和感なく表現した
絵の巧みさです。
変にリアルなラチョフのタッチは、
子どもの瞳には
真実として映るのかも知れません。
また、手袋が住居として
ページをめくるごとに
カスタマイズされていることが、
手袋が次第に
大きくなっている矛盾を
かき消しているものと
考えられます。

何よりも、冬の寒い日に
私たちの手を温かく守ってくれる
「てぶくろ」に、
かわいいねずみから
恐ろしいおおかみやくままで
入り込んで暖め合うという発想。
これで子どもたちの心が
温まらないはずがありません。

巻末のデータを見ると、
発行日は何と1965年。
私の生まれる1年前です。
もしかしたら私も幼い頃、
親や幼稚園の先生などから
読み聞かせを受けたのかも
知れません。
記憶は全くありませんが。
そして1998年時点で第106刷。
いかに広く長く愛されてきた
絵本であるかがわかります。
私の2人の息子はもう22歳と20歳。
この「てぶくろ」も
もう10年以上開かれることなく
書棚に眠っていました。
あらためて読むと、
本当に素晴らしい作品だと思います。
表紙はすでに端の方が
色褪せているのですが、
孫に読み聞かせするまで
大切にしていきたいと思います。
(2019.1.1)

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