
第一作にしてすでに完成形、これが乱歩のジュヴナイル
「怪人二十面相」(江戸川乱歩)
ポプラ社
「怪人二十面相」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第10巻」)光文社文庫
家出していた長男が
十数年ぶりに帰国した
実業家・羽柴氏のもとに、
ロマノフ王家に伝わる
宝石を奪うという
怪人二十面相からの予告状が届く。
厳重な警戒態勢にもかかわらず
宝石は奪われてしまい、
さらに次男の壮二が誘拐される…。
2015年に乱歩没後五十年を迎え、
江戸川乱歩再評価の気運が
世間で高まりました。
その折にもう一度
乱歩作品を読み返してみようと
思い立ちました。
どれから再読するかといえば、
もちろん少年探偵シリーズでしょう。
最近このシリーズのオマージュ作品が
何点か出版されていますが、
そんなものには脇目を振らず、
王道中の王道、
「怪人二十面相」です。
【少年探偵団事件ファイル1】
「怪人二十面相」事件
〔二十面相一味〕
怪人二十面相
…希代の怪盗。変装の名手であり、
老若男女どのようにも変装できる。
美術品蒐集が趣味。
盗みを働く際は予告状を出す。
木下虎吉
…アジトのコック。
松下庄兵衛
…二十面相の短期の仕事を受ける。
赤井寅三
…明智に恨みを抱く男。
二十面相に召し抱えられる。
〔事件関係者〕
羽柴荘太郞
…実業家。
ロマノフ王家のダイヤモンドを所有、
二十面相に狙われる。
羽柴壮一
…荘太郞の長男。
家出し、行方不明だったが、
十年ぶりに帰ってくる。
羽柴壮二
…荘太郞の次男。
二十面相に誘拐される。
少年探偵団結成の発起人となる。
羽柴早苗
…荘太郞の長女。壮二の姉。
近藤…羽柴家の支配人の老人。
松野…羽柴家の運転手。
日下部左門
…美術品収集狂の老人。
二十面相に狙われる。
作蔵…日下部家の使用人。
辻野
…外務省職員。
帰朝した明智を出迎える。
北小路
…帝国博物館館長。文学博士。
〔捜査関係者〕
中村善四郎…警視庁警部。
今西…警視庁刑事。
〔明智探偵事務所およびその関係者〕
明智小五郎
…その名の知られた名探偵。
満州に出張中だった。
小林芳雄
…明智の少年助手。留守中の
明智に代わって依頼を受ける。
ヒッポちゃん
…小林少年の伝書鳩。拉致された
小林少年の居場所を伝える。
明智文代…小五郎の妻。
〔事件の概要〕
⑴羽柴邸事件
・東京・麻布区・羽柴邸および
戸山ヶ原・アジト
・10月ごろ
・二十面相、羽柴邸にて
ロマノフ家のダイヤモンドを強奪。
・逃走とともに壮二を誘拐、
安阿弥観世音像を要求。
・小林少年、二十面相のアジトに
潜入するも捕らえられる。
・警察隊、アジト突入。二十面相逃走。
⑵日下部邸事件
・伊豆半島谷口村・日下部邸
・11月15日
・二十面相、
日下部邸から名画数十点を強奪。
⑶帝国博物館事件
・東京駅、鉄道ホテル、帝国博物館
・12月ごろ
・明智帰朝、
鉄道ホテルにて二十面相と対談。
・明智、二十面相に誘拐される。
・12月10日、
二十面相、帝国博物館の美術品強奪。
・二十面相逮捕。
本作品の味わいどころ①
圧倒的な存在感!怪人二十面相
怪人二十面相、シリーズ第一作から
圧倒的存在感を放っています。
あたかもすでに
有名となっているかのような
描かれ方であり、冒頭から読み手を
ぐいぐいと引きつけます。
ジュヴナイルということを
十分意識したのでしょう、
二十面相のキャラクターとして
設定された、
人殺しをしない、
金儲けに走らない、
美術品に絞って狙う、
誰にでも変装できる、
これらは少年作品の「怪盗」の
スタンダードとなりました。
この、圧倒的な存在感を放つ、
怪人二十面相というキャラクターこそ、
本作品の、そして
本シリーズの、最大の
味わいどころとなっているのです。
まずはじっくり味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
少年の心を鷲づかみ!小林少年
小林少年は、すでに
大人向け作品(「吸血鬼」など)でも
登場しています。
本作での設定は十五六歳。
想定した読み手の年代より
少し上に設定、
少年たちが憧れる存在として、
第一作から大活躍するのです。
この小林少年の見せ場をつくるため、
乱歩は明智を
海外出張させたのでしょう。
大人たちと対等に渡り合う、
二十面相に恐れもせずに立ち向かう、
困難に陥っても諦めずに対処する、
冷静沈着に「七つ道具」を駆使する、
そんな小林少年の姿は、
当時の子どもたちの心を
魅了したはずです。
この、少年の心を
鷲づかみにして離さない、
小林少年の魅力ある姿こそ、
本作品の、そして
本シリーズの最高の
味わいどころとなっているのです。
次にしっかり味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
昭和の少年の憧れ!明智小五郎
そして、本作品以前より乱歩作品で
活躍する名探偵・明智小五郎。
本作品でも登場後、
すぐに二十面相と笑顔で対談、
余裕のある姿が
人物像をさらに大きくしています。
そして二十面相に
誘拐されたと思いきや、
帝国博物館の窮地を救う逆転の大勝利。
鮮やかな手並みで盗み出す二十面相の、
さらに上手をゆく見事な探偵術。
当時の子どもたちはみな、
この明智小五郎を崇拝していた
(私もその一人)と考えられます。
この、昭和の少年の憧れともいえる、
名探偵・明智小五郎の雄姿こそ、
本作品の、そして
本シリーズの究極の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと堪能しましょう。
というわけで、
怪人二十面相、
小林少年(+少年探偵団)、
名探偵・明智小五郎、
このメインキャラクターだけで、
少年探偵団シリーズは
何年も続くこととなるのです。
シリーズ第一作にしてすでに完成形。
これこそが
乱歩のジュヴナイルなのです。
本作品のみならず、
シリーズ全作品をぜひご賞味ください。
(2019.1.5)
〔「少年探偵団シリーズ」の思い出〕
このシリーズ、
説明は不必要です。
怪人二十面相が美術品を狙って
予告状を出した上で盗みに参上する。
手口は決まって
誰かに変装して懐深く入り込み、
一瞬の隙を突いて奪い取る。
名探偵明智小五郎、
その助手小林少年、
そして少年探偵団が
その裏をかいて大団円を迎える。
すべて同じです。
子どもの頃、
シリーズを読みまくりました。
ポプラ社から出版されていた全46巻。
私と同じ年代の男性であれば、
カバーデザインが
すぐ目に浮かぶと思います。
ワクワク、ドキドキでした。
シリーズを読み進めるたびに、
二十面相は次から次へと
新たなトリックを繰り出してくる。
そしてそれに対抗する
明智探偵と少年探偵団の冒険。
少年探偵団が窮地に陥ると
「くそっ、やらちまった」、
二十面相を出し抜くと
「どうだ、やったぜ!」、
自分が一団員になった気分に
浸りまくりでした。
それは今考えると
ワンパターンなのですが、
当時の少年からすれば、
常に新鮮に感じられたのです。
男の子のが「本を読む」といえば、
少年探偵団しかなかった記憶があります。
ポプラ社のシリーズから
読書に入った子どもが
かなりいたはずです。
野球であれば巨人、
相撲であれば北の湖
(大鵬はちょっとの差で引退した後)、
弁当のおかずであれば卵焼き、
読書であれば少年探偵団。
私の少年時代には、
このように夢中になれる
存在感の大きなものが、
世の中にたくさんあったのです。
探偵小説なんて
単なる子ども騙しだ、などと
自分に言い訳するのはもうやめます。
乱歩が大好きです。
ポプラ社のシリーズ全46巻
(復刻版ですが)、
書斎の書棚に揃っています。
光文社文庫の全集全30巻も揃えました。
乱歩の世界を
存分に楽しみたいと思います。
(2019.1.5)
〔青空文庫〕
「怪人二十面相」(江戸川乱歩)
〔関連記事:乱歩作品〕



〔ポプラ社:少年探偵団シリーズ〕
〔「江戸川乱歩全集第10巻」〕
怪人二十面相
大暗室
解題/注釈/解説
私と乱歩 瀬名秀明
〔光文社文庫「江戸川乱歩全集」〕


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