諸手をあげて新訳に大賛成
「トム・ソーヤーの冒険」
(トウェイン/柴田元幸訳)新潮文庫
私があれこれ書くまでもなく、
何度読んでも素晴らしい小説です。
破天荒なトムのキャラクター、
トムとハックの友情、
トムとベッキーの幼い恋愛感情、
冒険、
そして悪い大人を懲らしめる…。
少年を主人公とする小説の
すべての要素を盛り込んだ、
まさに王道を行く作品です。
「児童文学」というジャンルを、
かつての文豪たちが
切り拓かなかった日本において、
本書や「宝島」「十五少年漂流記」等の
海外作品群は貴重です。
子どもたちにも、
そして大人にも、
薦めていきたいと考えています。
さて、十年くらい前から
文庫本では「新訳」が
一つのブームになっています。
光文社新訳文庫が登場した際は、
「何で今頃新訳?
元が同じならそんなに違うわけ
ないだろうに」と思っていました。
そのうち、新潮文庫でも新訳、
そして新装丁で
いくつか再出版し始めました。
子どもたちに薦める手前、
訳者がかわれば文章がどう違ってくるのか
確かめかめようと思い、
旧訳(大久保訳)を
所有しているにもかかわらず
本書を購入しました。
すると、…いいです。
文章が現代的でスタイリッシュです。
持って回ったような言い回しが一掃され、
テンポの良い文章に仕上がっています。
冒険小説ではこのスピード感が重要です。
第34章の一節を比較してみます。
【旧訳】
「トム、綱があったら
逃げ出せるんだけどな。
この窓なら地面からそう高くないぜ」
「ばかなことをいうなよ!
なぜ逃げたいんだ?」
「だって、おれは、
あんなに大勢人のいるところへ
出たことがないんだ。
おれはごめんだよ。
おりて行かないよ、トム」
「いやならよせよ!
なんでもないじゃないか。
おれは平気だ。
おれがついているから大丈夫だよ」
【新訳】
「トム、ロープが見つかれば逃げ出せるよ。
この窓、そんなに高くないから」
「えっ、何で逃げたいんだよ?」
「俺こういう集まり慣れてねえんだよ。
我慢できねえんだよ。
俺行くの嫌だよ、トム」
「何言ってんだ!
こんなの何でもないって。
俺は平気だよ。
大丈夫、俺が面倒見てやるから」
いかがでしょうか。
ただ、ネット上で書評を見ると、
旧訳支持の方が多いようです。
多分、
若い時分に脳へ刷り込まれた
文章から抜け出すのは、
なかなか難しいのでしょう。
でも、
私は諸手をあげて新訳大賛成。
新装になって
活字が大きくなっているのも
嬉しいかぎりです。
多少値段が高くても新訳を買っています。
というよりも買い直しています。
本作品の訳者・柴田元幸は
すでにハックルベリーフィンも
翻訳しています。
新潮文庫版で出版される日を
今か今かと待っている今日この頃です。
(2019.1.8)