わからなくてもいいのです、夢ですから
「夢十夜」(夏目漱石)
(絵:しきみ)立東舎
前回、本作品について、
「漱石が何かを包み込んで
潜ませていると考えるべき」と
書きながらも、
「詳しいことは研究者に
まかせた方がいいのかも」とも書き、
さらには「私たちは十分作品を
楽しみましょう」と無責任に結びました。
ところが、そうはいいながらも、
なかなか楽しめない作品ではあります。
やはり出ました。立東舎の
「乙女の本棚」シリーズ第8作です。
これなら乙女のみならず、
子どもも大人も楽しめます。
何度も指摘しましたが、
本シリーズは
イラストが重要な役割を担っています。
ところが
内容の理解を助けるためのイラストと、
作品理解には直接役立たず、
新しい切り口で作品のイメージを
構築するためのものと、
二通りあるように感じます。
本作品におけるイラストは、
明らかに後者の立ち位置です。
登場する「自分」は、
何とも異様な出で立ちです。
どう見ても女性にしか見えない姿。
和洋判別のつかない衣装に
猫耳と目隠しの付属した帽子
(小学校の給食当番用の
エプロンと帽子にしか見えない)。
その「白」は
死装束のそれにしか見えないものの、
下には2トーンの
パステルカラー地のワン・ピース。
腰には大きなピンク色のリボン。
足先手先はグラデーションの末に黒。
いったい何を表現しているのか…。
わからなくてもいいのです、
夢ですから。
楽しめればいいのです。
そして、
作品から切り取った風景が、
これまた異世界です。
第六夜の「運慶」は
鎌倉時代の仏師の面影を一切とどめず、
トンボの化身のような姿形で
なにやら人の頭のような
「像」の上に腰をかけている。
第八夜の終末では、
金魚売りは描かれずに、
なぜか金魚とともに泳ぐ3人の美少女。
第十夜の主人公が
往来で水菓子(果物)を
見つめているはずなのに、
美少女の周りに飛び散る
桃、林檎、バナナ、キウイ、
ブルーベリー、…。
わからなくてもいいのです、
夢ですから。
楽しめればいいのです。
作品自体が訳のわからない
「夢」を扱っているのですから、
そのイラストもこれくらい
訳がわからないものの方が
いいに決まっています。
このしきみというイラストレーター、
過去2作品を見ると、
「猫町」も夢の中の幻想、
「押絵と旅する男」も
遠眼鏡から見た異世界であり、
本作品と酷似しています。
作品自体は高校生に薦めたいのですが、
イラスト付きの本書は
ぜひ中学生に薦めたい一冊です。
(2019.1.10)