イラストの表現する世界を楽しみましょう
「外科室」(泉鏡花)(絵:しきみ)立東舎

またまた出ました。
立東舎の「乙女の本棚」シリーズ、
これで9作目となります。
泉鏡花の「外科室」とは、
またもや意表を突いたチョイスです。
原文は文語体。
そのままでは誰であっても
読みこなすのは
至難の業であるはずです。
だからイラストの登場なのでしょう。
これなら乙女も
高校生も中学生も楽しめます。
のはずなのですが、
一筋縄ではいきません。
またもやイラストが作品理解の
何の役にも立っていないからです。
すべてが奇妙奇天烈です。

患者の女性はなぜか
艶やかな赤い羽織を羽織っている。
それだけならまだしも、
胸には般若の面、
顔には西洋のマスクをつけている。
さながら仮面舞踏会、
いや仮面少女か。

看護師たちは
時代考証など全く意に介さない、
和服にエプロンとハイヒールの
和洋折衷の術衣(というかコスチューム)。
顔は黒く影で表現され、
悪の秘密結社の様相を呈している。

高峰医師も黒いマスクで目を隠し、
手術を始めるようには到底見えず、
あたかも違う「いけない何か」を
始めようかという
予測不可能の出で立ち。

あるカットでは、
女性は胸から不思議な
花の咲く木を生えさせている。
かと思えば別のカットでは、
メスで切り開いた切り口からは、
赤い血潮ではなく、
赤い色に染まった
女性が3人顔を出している。
もはやカオス(混沌)です。

本文が文語体で書かれていて
理解できないのに、
このイラストでは
内容を把握するどころか余計
わけがわからなくなってしまいます。
般若の面は胸に巣くう病巣、
マスクはお互いに感情を隠すため、
看護師たちの異様さは「外科室」という
日常とは異なる空間の暗喩、
吹き出た赤い女性は、
それまで秘めていた彼女の想い、
というように解釈することはできます。
しかし、それは
本文を十分に理解した上でなければ
不可能です。
やはり意味不明といわざるを得ません。
ですが、それはそれでいいでしょう。
イラストの表現する世界を
楽しみましょう。
泉鏡花の描いた世界には
到達できずとも、
別の妖しげな世界へは
十分に案内してくれています。
あるがままに受け入れることも、
読書の楽しみの一つですから。
(2019.1.16)
