私は猫が大好きです。でも、…。
「猫ばっか」(佐野洋子)講談社文庫
私は猫が大好きです。
でも、今まで一度も
猫を飼ったことがありません。
理由は簡単です。
私の妻は猫が大嫌いだからです。
だから私はこれからも
猫を飼うことはないでしょう。
それならどうするか。
本の世界で猫を楽しむだけです。
かといって50を過ぎた男が、
猫の写真集を見て喜ぶ姿は
誤解を招く恐れがあります。
だから佐野洋子です。
絵本「100万回生きた猫」も
素晴らしいのですが、
こちらも味わい深いものがあります。
何より文庫本で手軽です。
断っておきますが、
猫の愛くるしい様を描いた
絵本でもなければ
メルヘンチックな猫物語でも
ありません。
強いていえばいろいろな猫の
観察日記のようなものでしょう。
佐野洋子の鋭い観察眼と文章表現が
何ともいえない味わいを
つくり出しています。
子どもだけの留守番のときに
ストーブをつけておくのは
危険だからと、
じっと猫を抱いて過ごす少年。
「おれ、猫、ペットなんて思わないね。
あれは生きている暖房器具ね。」
友達の猫がえさの
煮干しの頭とはらわたを残すのを聞いて、
それをもらって自分の猫に与える飼い主。
「煮干しの頭と
はらわたで興奮できる幸せを、
おまえはもっているんだよ。
それが人生の喜びなんだからね。」
「いちばんおっとりしている、
きりょうのいい猫だよ。」と言われて、
生まれたばかりの子猫を
友達からもらった筆者。
「かわいいけど、ちょっとバカ、
いや、かなりバカ。の
違ういい方のようにきこえた。」
かまってくれない飼い主に
対するストレスを、
お漏らしで表現する猫。
スペイン製の旅行鞄、
カシミヤのショール、
桐のタンス、
高価なものほど被害を受けて
筆者は反省する。
「悪かった、悪かった。
でもねー、もう少し
孤独に強くなって
もらいたいんだけどね。」
それにしても、
猫と人間のシビアなつながり方が
あれもこれもと描かれています。
単なるペットではなく、
かといって家族でもない。
腕白少年のおもちゃ代わりの猫、
暖房代わりの猫、
残飯処理機代わりの猫、
鬱憤晴らしの
サンドバッグ代わりの猫、
家の一部としての猫…。
人間の身のまわりの、
何か欠けたピースを埋める
存在として表現されています。
だとすればまさしく猫は、
人間社会の一部と
いえるのかも知れません。
佐野洋子のエッセイとイラスト。
その両方に癒やされてみませんか。
(2019.1.17)