「過ぎ去りし王国の城」(宮部みゆき)

これこそが現代的な冒険小説といえます

「過ぎ去りし王国の城」(宮部みゆき)
 角川文庫

「過ぎ去りし王国の城」角川文庫

中学3年の真が拾った
中世の古城が描かれたデッサン。
そこにアバターを
書き込むことによって
絵の世界へ
り込めることを知った真は、
美術部員・珠美に
アバターの制作を依頼する。
絵の古城の中には、
一人の少女が
閉じ込められていた…。

デッサンの中にアバターが入り込める、
中世の城が舞台、
少女が閉じ込められている、とくれば
ロールプレイングゲーム型の
冒険小説かと想像してしまいます。
読むのをやめようかと逡巡しましたが、
そんな安直な展開に陥ることなく
最後まで緊張感を持って
読むことができました。

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今日のオススメ!

本書の面白さ①
主人公の男女が結ばれない

冒険小説における男女の主人公は、
いがみ合いながらも
一緒に危険を乗り越えるうちに
愛情が芽生え…のような形で、
終末では結ばれるものが多いのですが、
そんなベタな展開にならないのが
素敵です。
真と珠美は
お互いを理解し合いながらも
それぞれの道を歩んで別れていきます。

本書の面白さ②
物語の主な舞台は現実世界

絵の中の世界は
物語のほんの小道具に過ぎません。
現実世界での展開が主なのです。
主人公の二人が苦悩するのも現実世界。
絵の秘密を探るのも現実世界。
謎が解き明かされるのも
現実世界なのです。
すべてが異世界の中で完結するような
ありふれた展開にはなっていません。

本書の面白さ③
終末に救われるのは一部

壮大なストーリーの果てに
世界が救われるような
よくある展開ではやはりありません。
主人公二人を取り巻く状況も
何一つ変わりません。
特に珠美はについては
真という理解者ができたこと以外、
全く救われていません。
絵の世界は崩壊し、
表面には全く登場しない
女性一人が救われるのみです。

本書の面白さ④
登場人物が正義感で動いていない

絵の謎を解こうとする真、珠美、
そしてもう一人の人物・パクさん、
それぞれが自分の都合で
動いている部分が大きいのです。
真は勢いと思い込みと謎解きのため、
珠美とパクさんは
自分の悲しい人生を
変えようという気持ちから。
それによって主要人物3人が
きわめて人間的な体温を持って
迫ってくるのです。

これこそが
現代的な冒険小説といえます。
さすが宮部みゆき
現代作家の冒険小説はひと味違います。

※コテコテのロールプレイングを
 想像して読んだ向きには、
 期待外れに終わる可能性があります。
 何よりも上に挙げた①~④が
 すべて欠点と感じるかも知れません。

※あまりこの手のエンタメ小説には
 手を出さないようにしているのですが、
 書店で手に取ったら
 面白そうだったので
 つい買ってしまいました。
 リアル書店ならではです。

(2019.1.26)

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