異質なものが決して排除されない世界
「雪だるまの雪子ちゃん」(江國香織)
新潮文庫

空から降ってきた
雪だるまの雪子ちゃんは、
画家・百合子さんの物置小屋を
住処とする。
雪子ちゃんは
トランプや夜更かしや
バターが大好きな、
野生の雪だるま。
ある日、雪子ちゃんは、
小学校を訪れ、
校庭のブランコに乗る…。
江國香織の童話の世界です。
「野生の雪だるま」という発想が
斬新かつメルヘンチックです。
雪だるまの雪子ちゃんは
ちゃんとした生き物。
でもやはり暑いのはダメ。
なんと夏は夏眠(!)をします。
雪だるまだから
最期は融けて悲しい別れ…、
となると思いきや、
夏眠のあと目覚めて
リフレッシュして終わるという
ハッピーエンド。
やはり童話は
こうでなくてはなりません。
奇をてらった設定に
惑わされてはいけません。
ここで味わうべきは、
周囲がしっかりと雪子ちゃんを
受け入れている物語世界の
温かさなのです。
異質なものを
排除しようとする気持ちが
微塵もないのです。
まず、面倒を見ている百合子さん。
降ってきたての雪子ちゃんを
見つけた縁か、
雪子ちゃんは勝手に
百合子さんの物置に住み着きます。
雪子ちゃんはそこが
百合子さんの所有という意識すらなく、
「こんど隣に越してきたものです」と
あいさつまでしますが、
百合子さんは
笑ってそれを受けて入れています。
そして、
雪子ちゃんが立ち寄った学校。
授業を中断して
雪子ちゃんのための席を、
教室内は暖房が効いていますので、
窓の外の朝礼台を使ってつくります。
異なるものを排除してしまうことが
多いのが学校の現実なのでしょうが、
ここは江國ワールドです。
すべてのものが
温かく受け入れられます。
さらに、
そこで知り合ったお友達。
雪子ちゃんは昼食に招待されます。
家族は冬の寒い日に、
わざわざ雪子ちゃんに合わせて
野外パーティを開くのです。
想像するだけで寒気がしそうですが、
逆に心がほかほかと温まります。
そうなのです。
この物語世界では、
異質なものが決して排除されず、
しっかりと受け入れられているのです。
しかも誰一人無理をするのではなく、
あたかもそれが自然であるかのように
振る舞っています。
少数の特異者が
多数の健常者の
実状に合わせるのではなく、
すべてのものが
当たり前に存在できる社会。
ユニバーサルデザインの思想が
染み渡った世界がここにあるのです。
だからこそ、雪子ちゃんは
消えてなくならないのです。
つらいひと夏を寝て過ごせば、
そこからまた新しい新鮮な世界が
始まるのです。
幸福とは、
このようなことなのでしょう。
子どもにも、大人にも、
自信を持って薦められる一冊です。
※挿入されている
山本容子の銅版画も秀逸です。
(2019.2.1)
