「妖怪博士」(江戸川乱歩)

本作品での二十面相はサディスティック

「妖怪博士」(江戸川乱歩)ポプラ社

「妖怪博士」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第12巻」)光文社文庫

少年探偵団員の相川泰二は、
怪しい老人を見かけ、尾行する。
たどり着いた奇妙な洋館に
忍び込んだ彼は、
そこに縄で縛られた
美少女を見つける。
怪老人・蛭田博士は
魔法のような力を持ち、
館にはいくつもの
不思議な仕掛けがあった…。

「怪人二十面相」「少年探偵団」に続く、
江戸川乱歩少年探偵シリーズ三作目
「妖怪博士」です。
今回も基本的構成は
怪人二十面相vs
明智・小林・少年探偵団なのですが、
前二作とはやや雰囲気が異なります。
今作の二十面相は
乱歩の魂が乗り移ったかのような
サディスティック趣味に
走っているのです。

【少年探偵団事件ファイル3】
「妖怪博士」
〔怪人二十面相一味〕
妖怪博士(蛭田博士)

…少年探偵団員を誘拐・拉致・監禁する。
妖婆
…謎の洋館で少年探偵団員を翻弄する。
殿村弘三…自称・私立探偵。
お化蝙蝠…鍾乳洞の中の怪物。
怪人二十面相
…希代の怪盗。変装の名手であり、
 老若男女どのようにも変装できる。
 明智と少年探偵団を逆恨みする。。
〔事件関係者〕
小泉信太郎

…実業家。息子の信雄を誘拐され、
 雪舟の掛け軸を
 二十面相に渡す決意をする。
〔捜査関係者〕
中村善四郎
…警視庁警部。
※本作品では下の名前は登場しない。
〔明智探偵事務所およびその関係者〕
明智小五郎
…私立探偵。
小林芳雄…明智の少年助手。
※以下、少年探偵団員。
 すべて鍾乳洞探検に参加。
相川泰二
…妖怪博士から催眠術をかけられ、
 父親の機密情報を盗み出してしまう。
大野敏夫斎藤太郎上村洋一
…泰二を探し出そうとして
 逆に妖怪博士に拉致される。
小泉信雄
…二十面相に拉致・監禁される。
羽柴荘二
…第一作で少年探偵団の
 発起人となった。
篠崎始
…鍾乳洞探検を提案する。
桂正一
…鍾乳洞探検を提案する。
 荘二と従兄弟。
※篠崎、桂は第二作、
 羽柴は第一、二作に登場。
〔事件の概要〕
⑴相川少年他三名拉致事件
・麻布区内:相川少年宅
 麻布区内:怪しい赤煉瓦の西洋館
・相川少年、怪老人を追って洋館潜入。
・妖怪博士、相川少年を催眠操作し、
 父親の持つ機密情報を盗み出させる。
・妖怪博士、
 大野・斎藤・上村の三少年を拉致。
・殿村弘三、西洋館で明智と対峙。
・妖怪博士逮捕、その後脱走。
⑵小泉少年誘拐事件
・二十面相、小泉少年を拉致・監禁。
・二十面相、明智に変装し、
 小泉邸から掛け軸を盗み出す。
⑶少年探偵団員鍾乳洞拉致事件
・少年探偵団員十一名、
 奥多摩の鍾乳洞探検へ。
・団員、鍾乳洞内に閉じ込められる。
 お化蝙蝠登場。
・救出に向かった明智も捕らえられる。
・二十面相一味、捕縛。

本作品の味わいどころ①
二十面相の化物キャラ第二段階へ

前作「少年探偵団」では、
化物キャラ「黒い魔物」で登場した
二十面相ですが、
それは今作で第二段階へと進化します。
「妖怪博士」という
子どもが怖がりそうな名前を付けて
少年探偵団員を恐怖に陥れます。
さらには「妖婆」にも扮装し、
拉致した子どもたちをいたぶります。
同じ洋館内でのことです。
妖怪博士も十分恐ろしげな
いでたちでしたが、
老婆のコスチュームでも恐怖を与える
念の入れようです。
今作も後半は
素の二十面相となるのですが、
鍾乳洞内ではわざわざ
「お化蝙蝠」で現れ、
子どもたちを驚かすのです。
この、第二段階へと進化した
二十面相の化物コスプレこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
窮地に立たされる明智ファミリー

今回ほど、
明智・小林少年・少年探偵団員が
窮地に立たされた
エピソードはありません。
明智は危なく探偵としての
面目を潰されるところでした。
小林少年は団員を引き連れながら
奸計にはまり、
鍾乳洞に閉じ込められます。
少年探偵団員は散々な状況です。
おそらく、当時の読み手の子どもは、
少年探偵団員を自らに置き換え、
ドキドキしながら読み進めたはずです。
この、次から次へと
明智一家に襲いかかる災難こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
乱歩のサディスティック趣味全開

二十面相が予告状を出した上で
美術品を盗みに参上する、
それが基本パターンでした。
本作は異なります。
前二作での恨みを、
少年探偵団に向けて晴らすというのが
本作での二十面相の行動目的です。
そしてそれゆえでしょうか、
乱歩の趣味が
いたるところに現れています。

泰二君が発見した美少女は
「洋服の上から、太いなわで、
 手足をグルグル巻きに
 しばられていました。
 口には白い布でさるぐつわさえ
 はめてあるのです」

結局は人形だったのですが、
妖しさ抜群です。

妖怪博士に拉致され、
催眠術をかけられた泰二少年は、
自分が何かしでかすのではないかと
不安に陥り、
母親に自分を縛ってくれと懇願します。
「もっと、きつくしばってください。
 どうしてもとけないように、
 強くむすんでください」

いや、それはまずいでしょう、と
思わず言いたくなります。

さらに泰二君を救出しようとして、
少年探偵団員三人が罠に落ちます。
監禁された部屋の中の樽を開けると
そこには…、
「それは、たがいにもつれあった、
 何百ぴきともしれぬ
 ヘビだったのです。
 大小無数のヘビは、
 みるみる地下室いっぱいにひろがり、
 床も見えぬほど
 ヌメヌメとうねる波に
 おおわれてしまいました。」

その後も縛り上げられた四少年を
石膏像の中に塗り込める、
別の少年を誘拐し、
吊り天井の部屋で恐怖を味わわせる。
子どもをいたぶりまくりです。

天才的なトリックで美術品を盗み出す
スマートな怪盗紳士の面影は
なりを潜め、本作品での二十面相は、
きわめてサディスティックです。
しかもいたいけな小学生を
相手にするのですから、
まったくもって大人気ありません。
でもだからこそ、子どもが読んだとき、
その恐ろしさに震え上がるのです。
乱歩がしっかり顔を出している
二十面相、それこそが本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

前作今作での試行錯誤を経て、
戦後のシリーズは
「青銅の魔人」「透明怪人」「宇宙怪人」
「夜光人間」など、
二十面相の化物キャラは
一層の充実を見せるのです。
怪人二十面相vs少年探偵団の、
戦前三作品の最後の作品、
ぜひご賞味ください。

(2019.2.2)

〔青空文庫〕
「妖怪博士」(江戸川乱歩)

〔関連記事:少年探偵団シリーズ〕

「怪人二十面相」
「少年探偵団」
「二銭銅貨」

〔ポプラ社「少年探偵団」〕

〔「江戸川乱歩全集第12巻」〕
少年探偵団
妖怪博士
悪魔の紋章
 解題/注釈/解説
 私と乱歩 田中芳樹

〔光文社「江戸川乱歩全集」〕

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