「妖怪博士」(江戸川乱歩)

本作品での二十面相はサディスティック

「妖怪博士」(江戸川乱歩)ポプラ社

少年探偵団員・相川泰二は、
怪しい老人を尾行した。
たどり着いた奇妙な洋館に
忍び込んだ泰二は、そこで
縄で縛られた美少女を見つける。
怪老人・蛭田博士は
魔法のような力を持ち、
屋敷にはいくつもの
不思議な仕掛けがあった…。

「怪人二十面相」「少年探偵団」に続く、
ご存じ江戸川乱歩
少年探偵シリーズ3作目。
以前、ストーリー展開には
シリーズ全作大きな相違がなく、
二十面相が美術品を狙って
予告状を出した上で盗みに参上する、
と書きました。
本作はちょっと違います。
前作2作での恨みを、
少年探偵団に向けて晴らすというのが
本作での二十面相の行動目的です。
そしてそれゆえに
乱歩の趣味がいたる所に現れています。

泰二君が発見した美少女は
「洋服の上から、太いなわで、
 手足をグルグル巻きに
 しばられていました。
 口には白い布で
 さるぐつわさえはめてあるのです。」

泰二君は妖怪博士に拉致され、
催眠術をかけられた上、
解放されます。
自分が何かしでかすのではないかと
恐れた泰二君は、母親に
自分を縛ってくれと懇願します。
「もっと、きつくしばってください。
 どうしてもとけないように、
 強くむすんでください。」

さらに妖怪博士に監禁された
泰二君を救出しようとして、
少年探偵団員3人が罠に落ちます。
閉じ込められた部屋の中に
置いてあった樽を開けるとそこには…。
「それは、たがいにもつれあった、
 何百ぴきともしれぬヘビだったのです。
 大小無数のヘビは、
 みるみる地下室いっぱいにひろがり、
 床も見えぬほどヌメヌメと
 うねる波におおわれてしまいました。」

その後も縛り上げられた4少年を
石膏像の中に塗り込める、
別の少年を誘拐し、
吊り天井の部屋で恐怖を味わわせる。
子どもをいたぶりまくりです。

天才的なトリックで
美術品を盗み出すスマートな
怪盗紳士の面影はなりを潜め、
本作品での二十面相は、
きわめてサディスティックです。
それをいたいけな
小学生相手にするのですから、
全くもって大人気ありません。
でも、だからこそ、
子どもが読んだとき、
その恐ろしさに震え上がるのでしょう。

加えて、今回の二十面相が
その身を隠す怪物は「妖怪博士」。
シリーズその後の
「透明怪人」「宇宙怪人」「電人M」等に
比べると、地味ではありますが、
その分、
恐怖度は一頭地を抜いています。

私も小学生のとき読んで、
本作品が一番怖いと感じた
記憶があります。
乱歩の本質がちょっとだけ(?)
顔を出した本作品。
大人になってから読むと
別の楽しみ方ができました。

(2019.2.2)

【青空文庫】
「妖怪博士」(江戸川乱歩)

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