「少年探偵団」(江戸川乱歩)

少年探偵団シリーズの正しい読み方

「少年探偵団」(江戸川乱歩)ポプラ社

「黒い魔物」なる怪人が
東京で次々と引き起こす
少女誘拐事件。
それらは篠崎家の周辺で起きていた。
篠崎家の所有する
「呪いの宝石」の災いなのか?
その宝石を盗み出す「黒い魔物」。
小林少年率いる少年探偵団が
謎解きに挑むが…。

血湧き肉躍る!と、感動を
つい古典的に表現したくなる
少年探偵団シリーズ第2弾です。
第1作「怪人二十面相」を
取り上げたときに書きましたが、
ストーリー展開はシリーズ全作
大きな相違はありません。
怪人二十面相が美術品を狙って
予告状を出した上で盗みに参上する。
手口は決まって
誰かに変装して懐深く入り込み、
一瞬の隙を突いて奪い取る。
名探偵明智小五郎、
その助手小林少年、
そして少年探偵団が
その裏をかいて大団円を迎える。
すべて同じです。

今回もそうです。
物語後半、二十面相が
ついにその正体を現し、
富豪の所有する黄金塔を盗もうとする。
予告状を今回は新聞社に送付し、
大々的に広告する。
カウントダウンまで行って、
イベントを盛り上げる。
富豪の最も信頼する使用人に変装し、
いつものように本物と偽物を
事前にすり替えさせる。
まんまとやられたと思った
その瞬間に明智小五郎登場!
犯人はここにいる!

このお決まりの筋書きを楽しむのが、
本書の正しい読み方です。
パターン化された
エンターティメントに、
日本人は弱いのです。
展開が読めてしまってもいいのです。
水戸黄門はつねに
8:45頃に印籠を出すから
安心できるのです。
スーパー戦隊の敵は
一度倒された後に
必ず巨大化するから面白いのです。
サザエさんもちびまる子ちゃんも、
同じ年齢のまま変わらないから
愛されるのです。

もう一つ、細かいことを
気にせずに作品にはまり込むのが、
本書の正しい読み方です。
犯行予告のカウントダウンが
「3」以降途絶え、「それには
深いわけがあったのです」という
記述がありながら、
その理由は最後まで登場しません。
それに文句を言ってはいけないのです。
運転手が途中から
真っ黒顔のインド人に入れ替わります。
明智は「車が走っている間に、
うしろの客席から見えないように、
ソッと用意の絵の具で
染めたのでしょう。」と
軽々しく言い放ちます。
そんなことできるかい!と
切れてはいけないのです。
小林少年が女装し、
女中として富豪宅に潜入します。
17歳の活動的な男の子の女装を、
変装のプロの二十面相が
見抜けなかったのか!と
突っ込みを入れてはいけないのです。
木を見ずひたすら森を見るように、
作品世界にどっぷり浸かってこそ、
本書の奥深い世界を
十二分に堪能できるのです。

今の小学生、中学生は
本書を読んでも面白いと
思わないのでしょうね。
子ども時代に
こんな素晴らしい本があってよかった。
つくづくそう思います。

※文庫本、新書本に限定している
 当ブログにとっては
 規格外なのですが、
 そんなこだわりが
 どうでもよくなるくらい、
 少年探偵団シリーズ、大好きです。
 一応、光文社文庫版
 江戸川乱歩全集にも
 収録されているのですが、
 このポプラ社からの
 復刻本を取り上げておきます。

(2019.2.2)

【青空文庫】
「少年探偵団」(江戸川乱歩)

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