
二十面相初の化け物キャラ化「黒い魔物」
「少年探偵団」(江戸川乱歩)ポプラ社
「少年探偵団」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第12巻」)光文社文庫
「少年探偵団」(江戸川乱歩)
(「少年探偵団・超人ニコラ」)
岩波文庫
「黒い魔物」なる怪人が
引き起こした少女誘拐未遂事件。
それらは篠崎家の周辺で
起きていた。
それは篠崎家の所有する
「呪いの宝石」の呪いと
一致していた。
はたして「黒い魔物」の正体とは?
小林少年と少年探偵団が
謎解きに挑むが…。
血湧き肉躍る!と、
感動をつい古典的に表現したくなる、
江戸川乱歩の
少年探偵団シリーズ第二作です。
第一作の表題は「怪人二十面相」と、
悪役の方に力点が置かれていましたが、
今回は「少年探偵団」。
少年の心に真っ直ぐ響く、
ストレート勝負のタイトルです。
【少年探偵団事件ファイル2】
「少年探偵団」
〔怪人二十面相一味〕
黒い魔物
…全身漆黒の魔物。
最初は悪戯だったが、
次に少女誘拐未遂事件を起こし、
さらに篠崎家の宝石強奪を実行する。
怪人二十面相
…希代の怪盗。変装の名手であり、
老若男女どのようにも変装できる。
美術品蒐集が趣味。
〔事件関係者〕
篠崎緑
…五歳の少女。黒い魔物に狙われる。
今井
…篠崎家の書生。
春木
…小林と緑が監禁されていた洋館の
持ち主。
大鳥清蔵
…大鳥時計店主人。家宝「黄金の塔」を
二十面相に狙われる。
門野
…大鳥時計店支配人の老人。
千代
…大鳥家の若い女中。
怪しげな行動をとる。
〔捜査関係者〕
中村善四郎…警視庁警部。
※本作品では下の名前は登場しない。
〔明智探偵事務所およびその関係者〕
明智小五郎
…私立探偵。「黒い魔物」が現れた当初は
東北の事件で出張中。
明智文代
…小五郎の妻。
小林芳雄
…明智の少年助手。留守中の
明智に代わって依頼を受ける。
羽柴荘二
…少年探偵団員。前作で少年探偵団の
発起人となった。
桂正一
…少年探偵団員。荘二と従兄弟。
副団長格。
篠崎始
…少年探偵団員。
妹・緑が黒い魔物に誘拐される。
小原
…少年探偵団員。春木邸の正門を
正一とともに見張っていた。
〔事件の概要〕
※「黒い魔物」登場
・悪戯をして世間を騒がす。
⑴篠崎家「呪いの宝石」事件
・東京世田谷区・篠崎邸・養源寺
・桂正一、黒い魔物を追跡、
養源寺で見失う。
・黒い魔物、二件の少女誘拐未遂。
・黒い魔物、篠崎邸より
呪いの宝石奪取。
⑵西洋館「春木邸」事件
・東京世田谷区・篠崎邸・西洋館春木邸
・黒い魔物の一味、
篠崎邸より小林少年と緑を誘拐、
春木邸地下室へ二人を拉致監禁。
・少年探偵団、春木邸を発見、通報。
・中村警部と警官隊、春木邸を包囲。
小林と緑を救出。黒い魔物一味消失。
・明智、春木邸に乗り込む。
・警官隊、再び春木邸包囲。
・二十面相、春木邸より脱出。
⑶大鳥時計店「黄金の塔」事件
・東京京橋区・大鳥時計店
・二十面相、新聞社に犯行予告。
・門野、黄金の塔のレプリカ作成。
レプリカを展示、本物は地下へ埋蔵。
・二十面相、黄金の塔奪取失敗、逃走。
・警官隊、二十面相アジトを包囲。
二十面相、アジトを爆破、行方不明。
本作品の味わいどころ①
二十面相初の化け物キャラ化
古典的名作ですので、
ネタバレも何もありません。
「黒い魔物」の正体は怪人二十面相です。
以後の作品もほぼすべて
化け物キャラが登場するのですが、
その正体はことごとく二十面相です。
前作では素のままでしたが、今回は
正体を隠しての登場となるのです。
雑誌掲載時に本作品を読んだ
当時の子どもたちは、
今度は少年探偵団が
「黒い魔物」と対決するのかと、
ワクワクして読んだに違いありません。
この、二十面相初の化け物キャラ化こそ
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
「初」ということなのでしょうか、
化け物キャラのネーミングが
今ひとつです。
「黒い魔物」、何かしっくりきません。
「暗黒魔人」や「漆黒怪人」など
ありそうですが、当時はそこまで
発想が及ばなかったのでしょう。
本作品の味わいどころ②
前半はいたずら目的の犯行か
その「黒い魔物」ですが、
犯行自体はたいしたことはありません。
東京の一般人を
ただ脅かすだけなのです。
いよいよ本当の計画実行かと思えば、
五歳の少女誘拐。
まるで「いたずら目的の犯行」です
(現代では別の意味でとらえられて
しまう、きわめて危険!)。
本当の目的は
宝石を盗み出すことですが、
そのカムフラージュとしての
いたずら的犯行、でも、
その正体が二十面相なのですから、
やっぱりいたずらが
主目的だったとしか思えないあたりが
面白いところです。
この、いたずら目的の犯行が続く
前半戦こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
後半は開きなおった二十面相
「黒い魔物」は、化け物キャラとしては
持ちが悪かったのでしょうか。
前半だけで正体を見破られ、
早々と退場します。
後半は開きなおって二十面相として
犯行を繰り広げるのです。
ターゲットとして選んだのは
「黄金の塔」。美術品などではなく、
単なる成金趣味のこしらえ物です。
やや二十面相の趣味とは
外れるのですが、そこは乱歩。
舞台となる大鳥時計店に、
近代的かつ厳重な警備態勢を設定し、
それを二十面相に破らせようという
魂胆なのです。
前作よりも盗みのハードルを上げ、
二十面相の怪盗術と
明智の探偵術の勝負を
よりスリリングにさせているのです。
この、開きなおった二十面相
vs明智・小林・少年探偵団チームの
勝負こそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
本作品によって、少年探偵団シリーズの
一つの形ができ上がりました。
のちのシリーズ作品、
ストーリー展開には
大きな相違はありません。
化け物キャラに扮した怪人二十面相が、
予告状を出した上で美術品を盗みだす。
誰かに変装して懐深く入り込み、
一瞬の隙を突いて奪い取るという手口。
明智・小林・少年探偵団が
その裏をかいて大団円を迎える。
一連の流れが
ここで完成しているのです。
このお決まりの筋書きを楽しむのが、
少年探偵団シリーズの
正しい読み方です。
少年の心に戻って本作品、
いや本シリーズをお楽しみください。
〔細かいことは気にしない!〕
もう一つ、細かいことを気にせずに
作品にはまり込むのが、
本書の正しい味わい方です。
犯行予告のカウントダウンが
「3」以降途絶え、「それには
深いわけがあったのです」という
記述がありながら、
その理由は最後まで登場しません。
それに文句を言ってはいけないのです。
運転手が途中から
真っ黒顔のインド人に入れ替わります。
明智は「車が走っている間に、
うしろの客席から見えないように、
ソッと用意の絵の具で
染めたのでしょう。」と
軽々しく言い放ちます。
そんなことできるかい!と
切れてはいけないのです。
小林少年が女装し、
女中として富豪宅に潜入します。
17歳の活動的な男の子の女装を、
変装のプロの二十面相が
見抜けなかったのか!と
突っ込みを入れてはいけないのです。
木を見ずひたすら森を見るように、
作品世界にどっぷり浸かってこそ、
本書の奥深い世界を
十二分に堪能できるのです。
(2019.2.2)
〔青空文庫〕
「少年探偵団」(江戸川乱歩)
〔ポプラ社:少年探偵団シリーズ〕
〔関連記事:少年探偵団シリーズ〕



〔「江戸川乱歩全集第12巻」〕
少年探偵団
妖怪博士
悪魔の紋章
解題/注釈/解説
私と乱歩 田中芳樹
〔光文社文庫「江戸川乱歩全集」〕
〔「少年探偵団・超人ニコラ」岩波文庫〕
少年探偵団
知恵の一太郎ものがたり(抄)
超人ニコラ
解説 小中千昭
解題 芳田司雄

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