「睡れる花嫁」(横溝正史)

その「凶悪」「陰惨」「不潔」こそ本作品の味わい

「睡れる花嫁」(横溝正史)
(「華やかな野獣」)角川文庫
(「人面瘡」)角川文庫
(「車井戸は何故軋る」)東京創元社

警官殺害の現場となった
廃屋のアトリエから、
さらに女の腐乱死体が見つかる。
犯人はそのアトリエの
持ち主であり、
数年前にもそこでおぞましい
死体遺棄事件を起こした
男なのだという。
いずれの場合も、
死体は愛された跡があり…。

「それは凶悪であるばかりでなく
 陰惨であった。
 陰惨であるばかりでなく
 不潔であった。」
と、
本作品冒頭に記されているとおり、
当ブログに掲載するのが
ためらわれるような事件の内容です。
横溝正史金田一耕助シリーズ
短篇作品ですが、
その「凶悪」「陰惨」「不潔」こそ
本作品の味わいどころなのです。

【事件簿File-022「睡れる花嫁」】
〔依頼人〕
なし
※事件に興味を持ち、
 金田一が自ら出馬。
〔捜査関係者〕
山内巡査
…S署巡査。巡回中に刺殺される。
石川巡査
…山内巡査と同僚のS署巡査。
井川警部補…S署捜査主任。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
樋口邦彦
…妻の死体を放置した罪に問われる。
 出所後、事件が引き起こされる。
樋口瞳
…邦彦の妻。肺病で死亡。
 死体は放置された。
樋口正直
…邦彦の従兄。
 邦彦が出所後に立ち寄った。
清水浩吉
…酒屋の御用聞き。
 瞳の腐乱死体を発見、通報。
村上章三
…アトリエの近所の住人。
 山内巡査を発見、通報。
河野朝子
…バー「ブルー・テープ」女給。
 結核で死亡。
 その遺体が何者かに盗まれる。
水木加奈子
…バー「ブルー・テープ」マダム。
水木しげる
…「ブルー・テープ」女給。加奈子の養女。
川口定吉
…水木加奈子のパトロン。
原田由美子
…「ブルー・テープ」女給。
「黒眼鏡の男」
…河野朝子の遺体を盗み出した男。
松浦三五郎
…由美子の死体を貸間に運び込んだ
 謎の男。
山本医師沢村看護婦
…河野朝子の入院していた病院の職員。
〔事件の概要〕
⑴昭和20年代
・樋口邦彦、自宅アトリエにて
 妻・瞳の遺体を放置。
・清水浩吉が瞳の腐乱死体発見、通報。
 死後情交の痕跡あり。
・樋口邦彦、服役。
⑵昭和27年10月8日
・樋口邦彦、出所。
⑶同年11月2日
・河野朝子、病死。
・朝子の遺体、盗難。
⑷同年11月5日
・山内巡査、アトリエから出てきた男に
 職質中、刺されて死亡。
・アトリエの中から河野朝子の
 腐乱死体発見。死後情交の痕跡あり。
⑸同年11月17日
・松浦三五郎と名乗る男、貸間を借り、
 原田由美子の遺体を搬入。
⑹同年11月20日
・貸間で由美子の腐乱死体発見。
・水木しげる、行方不明。
⑺同年12月25日
・しげるらしき女性の死体発見。
 顔面損傷。死亡は11月20日頃と推定。
⑻昭和28年1月10日
・金田一、等々力警部に
 事件の見立てを語る。事件解決。

本作品の味わいどころ①
「不潔」 おぞましき事件が出発点

愛する妻の死後もその体を愛し続けた。
その言葉を書くのもおぞましい、
いわゆる「屍姦」です。
本作品に描かれる連続殺人の下地は、
まさにその事件にあります。
ただし、樋口邦彦の言葉を
そのまま信用すると、
彼はただただ一途に
妻を愛していただけとも言えます。

彼は妻を殺害したわけでもなく(病死)、
彼の罪状は死体遺棄罪に当たります
(「遺棄」という語から「捨てる」
イメージを持ちやすいのですが、
判例・通説では、
「葬送義務を負う者が
死体を適切に処置せず放置することも
遺棄に含まれる」とされています)。
多分に情状酌量されるべき
事件なのですが、
横溝はここにおどろおどろしさを加え、
陰惨な事件の
プロローグとしているのです。

彼の出所後、
それを擬えたような事件が発生します。
しかも彼のアトリエで。
そこに放置された女性の遺体は、
なんと病院から盗まれたもの。
しかも死後情交の形跡あり。
こうなると樋口が前回の事件で
アブノーマルな性行為に目覚め、
出所後にそれを繰り返したと
考えられるのです。
さらにはもう一人のホステスが
殺害され遺体を放置されるにいたって、
その陰湿さは
クライマックスに達するのです。
おぞましい事件から出発し、
さらに陰惨・不潔・凶悪な事件へと
発展したその筋書きこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう
(あまり味わいたくないのですが)。

本作品の味わいどころ②
「凶悪」 謎の変態殺人鬼の正体は

その変態殺人鬼は
姿を隠して犯罪を繰り返します。
「黒眼鏡の男」
(松浦三五郎も同一人物と思われる)は、
「鳥打帽子をまぶかにかぶり」
「大きな黒眼鏡をかけ」
「外套の襟をふかぶか立て」
「マフラーで鼻から口を
つつんでいる」のですから、
顔のわからない状態なのです。
不気味さが一層引き立つとともに、
「化け物キャラ」的雰囲気まで
漂っています。
しかもその正体が一切不明なのです。

不明なのは正体だけではありません。
その目的もよくわからないのです。
山内巡査、原田由美子、水木しげると、
三人が殺害されているのですが、
樋口瞳と河野朝子の死因は病死。
主目的は殺人なのか死体の弄びなのか、
つまり犯人は殺人鬼なのか、
あるいはただの変態なのか。
この、正体不明・目的不明の
変態殺人鬼の謎こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
「陰惨」 意外な犯人、意外な真相

殺人鬼の正体が
不明であるということは、
登場人物の誰でもありうると
いうことにもつながります。
やはり横溝です。
正体不明の先に、
意外な犯人を用意しています。
もちろん目的不明に見せかけて、
意外な真相が待ち構えています。
詳しくはぜひ読んで
確かめてくださいとしか
いいようがありません。
この、読み手の想像を超える、
意外な犯人、意外な真相こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

さて、金田一は
どのような推理を見せるのか…、
と思って読み進めるのですが、
怪しい人物を数日張り込みしただけで、
解決の糸口を
しっかりつかんでしまうのです。
本作品ののちに書かれた
「金田一耕助の冒険」
十一篇もそうですが、
東京での短篇は、
最後に金田一が等々力警部に
真相を打ち明けておしまい、
という形が多くなっています。
本作品もそのパターンなのです。

INDEX 金田一耕助の事件簿

「屍姦」というおぞましい行為を
扱っている金田一もの作品には、
「生ける死仮面」があります
(「夜の黒豹」にも登場するが
本作品とは毛色が異なる)。
冒頭部分でのアトリエの腐乱死体、
そして関わった警察官が
「山内巡査」(本作品)、
「山下巡査」(「生ける死仮面」)と、
冒頭部分の設定は似通っています。
「生ける死仮面」(1953年)で
消化しきれなかったアイディアを
本作品(1955年)で再料理してみた、
といったところでしょうか。
いずれにしても両者、
横溝作品における「醜悪さワースト1」に
挙げられる作品です。
ぜひご賞味ください
(あまり味わいたくないのですが)。

(2019.2.3)

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墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2026.1.28)

〔追記〕
長らく絶版だった本書は、
2022年3月に見事復刊しました。
杉本一文画伯による同じ装丁画ですが、
デザインは
マイナー・チェンジが施されています。

(2022.4.15)

〔角川文庫「華やかな野獣」〕
華やかな野獣
暗闇の中の猫
睡れる花嫁

〔角川文庫「人面瘡」〕
睡れる花嫁
湖泥
蜃気楼島の情熱
蝙蝠と蛞蝓
人面瘡

〔「車井戸は何故軋る」東京創元社〕
恐ろしき四月馬鹿
河獺
画室の犯罪
広告人形
裏切る時計
山名耕作の不思議な生活
あ・てる・てえる・ふいるむ
蔵の中
猫と蠟人形
妖説孔雀樹
刺青された男
車井戸は何故軋る
蝙蝠と蛞蝓
蜃気楼島の情熱
睡れる花嫁
鞄の中の女
空蟬処女

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「画室の犯罪」
「百面相芸人」
「本陣殺人事件」

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