「真珠郎」と作品構造が似ている
「眠れる花嫁」(横溝正史)
(「華やかな野獣」)角川文庫
警官殺害の現場となった
廃屋のアトリエで見つかった
女の腐乱死体。
数年前にも同じ場所で
おぞましい
死体遺棄事件があった。
驚くべきことに両者とも
死後情交の痕跡があったのだ。
やがて謎の屍姦魔による
第二、第三の犠牲者が…。
「それは凶悪であるばかりでなく
陰惨であった。
陰惨であるばかりでなく
不潔であった。」と、
本作品冒頭に記されているとおり、
当ブログに掲載するのが
ためらわれるような事件の内容です。
しかし何十年ぶりかで
横溝ミステリーを
読み始めた興奮冷めやらず、
取り上げてしまいました。
【主要登場人物】
樋口邦彦
…妻の死体を放置した罪に問われる。
出所後、事件が起こる。
樋口瞳
…邦彦の妻。肺病で死亡。
水木加奈子
…バー「ブルー・テープ」マダム。
水木しげる
…「ブルー・テープ」女給。加奈子の養女。
原田由美子
…「ブルー・テープ」女給。
河野朝子
…「ブルー・テープ」女給。
結核で死亡。
川口定吉
…水木加奈子のパトロン。
清水浩吉
…酒屋の御用聞き。死体を発見。
山内巡査
…巡査。巡回中に刺殺される。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
金田一耕助…私立探偵。
本作品の読みどころはどこかと
考えてみたら、
意外にも先日取り上げた
「真珠郎」と作品構造が
似ていることに気付きました。
本作品と「真珠郎」の共通点①
猟奇的犯罪者登場
本作品は屍姦魔、
「真珠郎」は猟奇的殺人者、
どちらも身の毛がよだちます。
これぞ横溝作品のキャラクターです。
しかも「その正体は?」という点も
非常によく似ています。
本作品と「真珠郎」の共通点②
絶世の美少年登場
やはり横溝正史は美少年好き。
本作品にも登場します。
ただし、「真珠郎」ほど
スポットが当たっていません。
注意しないと読み飛ばしてしまう
可能性もあります。
そして「美少年と美女は
紙一重」という点も
きわめてよく似ています。
本作品と「真珠郎」の共通点③
判別不能の死体登場
本作品では最後に
顔の損傷の激しい死体、
「真珠郎」では最後に
首なし死体が登場します。
ミステリーにおいては、
顔なし首なしは
身元隠しの常套手段です。
そして「最後の殺人は
犯人特定に繋がる」という点も
すこぶるよく似ています。
もちろん橫溝正史のような
ミステリーの多作家なら、
いくつかの作品に
共通するプロットがあって当然です。
これらは他の横溝作品にも
見られるものが
いくつかあるでしょう。
手を変え品を変え、
読者を満足させようと
作品を編みだし続けた結果なのです。
肝心の金田一の謎解きですが…、
怪しい人物を数日張り込みしただけで
解決の糸口を
しっかりつかんでしまいます。
警察は何をやっているのかと
言いたいところですが、
それはご愛敬でしょう。
まあ、○カードの管理会社から
令状なしで大量の個人情報を漁れる
現代の警察機構であれば、
こんな事件は名探偵の助力なしでも
簡単に解決できるのかもしれません。
ミステリーの成立しにくい
現代社会です。
※ちなみに本作品は金田一耕助。
「真珠郎」は由利・三津木コンビ。
本作品は昭和31年発表。
「真珠郎」はその20年前の昭和11年と、
違いは大きいのです。
そしてまったく異なった
味わいのある作品どうしです。
〔本書併録作品〕
(2019.2.3)
〔追記〕
長らく絶版だった本書は、
2022年3月に見事復刊しました。
もちろん杉本一文装幀です。
アイキャッチ画像はそちらの復刊版に
変更してあります。
旧角川文庫版を下に載せておきます。
装丁画は変更ありませんが、
「橫溝正史」「角川文庫」の文字の
入る位置が変更されています。
(2022.4.15)
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