「召集令状」(小松左京)

やはり誰にも止めることはできないのではないか

「召集令状」(小松左京)
(「あしたは戦争」)ちくま文庫

同じ課の新入社員に、ある日、
召集令状が届いた。
「たちの悪いいたずらだ」と
気にも止めずにいたのだが、
次々と日本全国の成年男子に
令状が届きだした。そして、
彼らはみなことごとく失踪し、
その規模は
次第に大きくなっていく…。

「巨匠たちの想像力」というテーマで
編まれたアンソロジー
全3巻中の第1巻「戦時体制」に
収録された冒頭の一編です。
恐ろしい。
SFの巨匠たちの描く想像は、
かくも恐ろしいのか。

令状の送付も
招集を受けた人間の消失も
すべて超常現象として描かれています。
パラレル・ワールドで
戦争が行われていて、
そこから呼び出されたものとして
物語は展開していきます。
この段階では、本作品は
単なる奇想天外な異次元ものSFです。

しかしさすが小松左京
そこからが恐怖の始まりです。

招集される人間の数が
数百~数千単位では、
人々は反戦運動を繰り広げ、
軍歌や戦車の玩具など、
戦争に関わるものすべてを
排除しようとします。
それが数万単位の人間が
消失した段階では、
世間はそれを仕方のないものとして
その事実を受け入れ、
諦観が広がります。
ついには出征兵士の見送り、
歩兵操典の再出版など、
世の中は戦時中の雰囲気さながらに
変化していくのです。

誰がどんな目的で
どの国と戦争を引き起こしたか?
そんなこととはまったく関わりなく、
いざ事が起きてしまえば
なし崩し的にそれに向かって
突き進まざるを得ない「世の中」が
実にリアルに描かれています。
私たちは二度と戦争を繰り返さない。
そう願っていても、
戦争に向かう流れが
一度できてしまえば、
やはり誰にも止めることは
できないのではないか。
そんな不安が押し寄せ、
背筋が凍りそうに寒くなります。

本作品の発表は、
戦後まだ20年経っていない時代の
1964年。
社会の現役層に、戦争経験者が
存在していた頃の作品です。
しかし現代でも十分
起こりえるのではないかと思わせる
説得力があります。

最後はさらに一ひねり。
超一級のSFエンターテインメントです。

※小松左京作品は
 「日本沈没」にしても
 「首都消失」にしても、
 異常事態そのものではなく、
 それによって引き起こされる
 社会の混乱を描いたものが
 多かったことを思い出しました。

(2019.3.2)

「巨匠たちの想像力〔戦時体制〕
  あしたは戦争」収録作品一覧

召集令状(小松左京)
戦場からの電話(山野浩一)
東海道戦争筒井康隆
悪魔の開幕(手塚治虫)
地球要塞海野十三
芋虫江戸川乱歩
最終戦争(今日泊亜蘭
名古屋城が燃えた日(辻真先)
ポンラップ群島の平和(荒巻義雄)
ああ祖国よ星新一

〔追記〕
「あしたは戦争」という本書のテーマが
架空の出来事ではないような情勢に
なりつつあります。
海の向こうでは侵略戦争が
リアルタイムで起きています。
巨匠たちの「想像力」は今、
現実のものとなろうとしています。

(2022.3.26)

【関連記事:小松左京作品】

【ちくま文庫「巨匠たちの想像力」】

【小松左京の本はいかがですか】

created by Rinker
¥554 (2025/06/24 00:41:43時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥554 (2025/06/24 00:41:43時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
KADOKAWA
¥748 (2025/06/24 00:41:45時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
KADOKAWA
¥836 (2025/06/24 00:41:45時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA