惹きつけられるのは、その「自由」な魂
「竹久夢二詩画集」(竹久夢二)岩波文庫
子どもの頃、
母親の買った雑誌に載っていた絵
(女性を描いた絵でした)を観て
「なんて下手な絵なんだろう」と
思った記憶があります。
それが竹下夢二の絵との
出会いでした。
子どもでしたので、
観る眼がなかったといえば
それまでなのですが、
それだけ夢二の絵は
強烈なインパクトがあったのです。
夢二の本(多くは詩画集)は
多数出版されています。
昭和50年代にノーベル書房から出た
復刻版「竹久夢二詩画集」全10巻を
以前から狙っていたのですが、
状態のよい古書に出会えず、
さらに置き場所に苦慮しそうで、
なかなか購入に
踏み切ることができませんでした。
そんなとき出会ったのが本書です。
文庫本1冊。
これなら大丈夫。
1200円+税ですので
一般の文庫本よりは高いのですが、
カラーも含め、
夢二の絵がふんだんに掲載されてあり、
格好の夢二入門書となっています。
やはり前半の詩画集に魅了されます
(後半はエッセイ集)。
存命中に出版された著書57冊中
30冊に詩が掲載されていて、
それらから代表的なものを
集めたものだそうです。
子ども向け大人向けにかかわらず
発表年順に収められているため、
夢二の画風の変化も
よくわかるしくみです。
多くはモノクロです。
でも、
色がなくとも画と詩が一体となり、
何ともいえない味わいを
生みだしているのです。
「昼間働く人たちが家へ帰り
門が閉まる時刻になると
梯子をかついで長い棒をもつて
家々の街灯に
灯をつけては
走つてゆく男があります。
さうだぼくはお前と一緒に
街から街を走りまわつて
家々に街灯をつけてゆかう。
そしてどんな貧しい家にも点けてやろう。
そしたら街がもつと明るくなつて
みんなが幸福になるだらう。」
(「点灯屋」)
美術学校出身ではない夢二は、
画壇に属することなく
独特のタッチで画を描き続け、
その画風も幾度か変遷していきました。
詩についてもやはり自由な立場で
書いたのであろうことが
察せられます。
誰かから教えられたのではなく、
自ら確立していった
自分独自のスタイルを貫いた夢二。
私たちが夢二の詩画に
惹きつけられるのは、
その「自由」な魂に
憧れるからなのかもしれません。
何だか文庫本で
満足できなくなりそうです。
やはり全10巻を買ってしまおうか。
(2019.3.4)