「白い不等式」(眉村卓)

現実の世界の対立構造が透けて見える

「白い不等式」(眉村卓)角川文庫

高校受験を控えた夏休み、
直也と孝次は倒れている
不思議な青年に出会う。
彼の言うとおりに空倉庫へ運び、
なにやら装置を動かすと、
彼は意識を失う。
二人が倉庫の扉を開けると、
そこには見知らぬ風景が
広がっていた…。

眉村卓
私にとっては懐かしい作家です。
中学から高校にかけて
20冊以上揃えていた眉村卓作品を、
大学卒業後の引っ越しの際、
すべて処分してしまいました。
二十代の頃、私はちょっと
お高くとまっていたのだと思います。
純文学以外、
子どもの読み物にすぎないだろうと。

最近になって、
そうではないと気づきました。
意識して純文学とSFやミステリーの
区別をつける必要はないのです。
いいものはいいのですから。
そういうわけで、今、
古書店やネットで
眉村卓の文庫本を買い直しています。

さて本作品、実はそうです。
コテコテの異世界迷い込みものです。
ジュニアSFにありがちな展開です。
だからといって
軽く見てはいけないのです。

そこは文明の進んだ世界から
支配されている別世界、
しかも江戸時代の
農村のような地域なのです。
四年前の一揆により、
支配者はその地から手を引きます。
しかし、村人たちと、
指導者層である陣屋衆が
対立しているのです。
直也と孝次は村人にとらえられますが、
陣屋衆の長・伊坂に助けられ、
行動を共にします。
二人は陣屋衆と村人、
そして再び現れた支配組織との確執を
目の当たりにするのです。

一揆の後、
陣屋衆は村人から冷遇されます。
しかしそれは一揆が起こる前まで
陣屋衆が村人を支配していた
背景があってのことです。
そもそも陣屋衆も
組織から支配されているのです。
本作品は、どこまでも続く
支配の輪廻を描いているのです。
そして、村人も陣屋衆も、
おそらくは支配者も、
自分たちが絶対に正しいと
思い込んでいるのです。
対立は激化こそすれ、
収まることは容易ではありません。

その構図からはISと欧米社会、
中東とアメリカ、
中国韓国と私たちの国等、
現実の世界の対立構造が
透けて見える気がします。

一見、村人の追っ手をかいくぐって
元の世界へと帰還する
SFサスペンスなのですが、
深い意味が含まれている…、
などと堅く考えず、
懐かしのSF作品を
じっくり楽しみましょう。
私は大好きです、眉村SF作品。

(2019.3.9)

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