「星やどりの声」(朝井リョウ)

苦い結末にもかかわらず、涙が溢れて仕方ありません

「星やどりの声」(朝井リョウ)角川文庫

喫茶店「星やどり」を営む
早坂家の三男三女母一人。
十数人も客が入れば
いっぱいになるような小さな店で、
一家は慎ましやかに生活していた。
常連客のおじいちゃんが
店に姿を見せなくなった頃から、
家族には少しずつ変化が現れ…。

この早坂家は、
長女・琴美がすでに就職し、
結婚までしているとはいえ、
頼りない長男・光彦は
就職先がなかなか決まらず、
二女・小春と三女・るりの双子は
何かに焦りやいらだちを感じ、
二男・凌馬は母親とうまくいかず、
三男・真歩は小学生でありながら
笑顔が見られないといった、
それぞれに葛藤を抱えている
一家なのです。

本作品の構成には
仕掛けが施されています。
6つの連作短篇の形をとっていて、
それぞれに子どもたちの名が
冠されているのです。
「長男 光彦」
「三男 真歩」
「二女 小春」
「二男 凌馬」
「三女 るり」
「長女 琴美」というように。
語り手がそれぞれの視点に
立つことによって、
個々の抱えている葛藤と
一家の背負っている問題が
浮き彫りになっていくのです。

ここで注目すべきは、
母親・律子の章がないばかりか、
その視点が本文中には
一切加えられていないことです。
すべてが子どもたちからの目線です。
したがって経済的な問題等の
細かい描写もありません。
それがいいのです。
子どもたちが捉えたものだけが
しっかりと描かれているのです。

やがて、店の経営が
行き詰まっていることが分かります。
小さな店を母親一人で切り盛りし、
大学生一人、高校生三人、
小学生一人を養っているのですから
当然です。
夏休みであることを利用し、
6人の子どもたちは
この店の経営の立て直しに
奔走します。
でも、それはやはり
夏休みの一時に過ぎないのです。

困難を克服し、
店が再建されるような、
予定調和的な筋書きには
陥っていません。
厳しい現実を直視し、
安易な結末へは持ち込まないのが
作者・朝井リョウの見事な結び方です。
店の経営の問題は
何一つ解決されないのですが、
その間に、6人が抱えていた葛藤が、
一つ一つ、
ゆっくりと氷解していくのです。

甘くはない、
むしろ苦い結末であるにもかかわらず、
涙が溢れて仕方ありませんでした。
現実の厳しさを
十分に踏まえながらも、
夢と希望を
しっかりと織り込んだ筋書き、
そして6人の子どもたちと
そこに繋がる魅力に溢れた登場人物。
その二つを描きあげた朝井リョウは、
やはりただ者ではありません。

(2019.3.20)

O12によるPixabayからの画像

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