スノーグースとともに大空を翔る二人の心
「スノーグース」(ギャリコ/矢川澄子訳)新潮文庫

体に障碍を持つ画家ラヤダーは
動物を愛する
穏やかな性格であったが、
醜貌ゆえ人との関わりを嫌い、
灯台小屋で
ひっそりと暮らしていた。
ある日、彼のもとへ、
傷ついたスノーグースを抱えた
少女がやってきた…。
スノーグースとは白雁。
渡りの途中で撃たれて
傷ついたその鳥は、
少女フリスに抱えられて
ラヤダーのもとへとやってきたのです。
そこからスノーグースを仲立ちとして、
人嫌いのラヤダーと少女との交流が
描かれていきます。
それにしても
ラヤダー、フリス、スノーグース、
この三者がみな美しいのです。
特に物語の終盤では
戦争が描かれているのですが、
この「醜いもの」と
「生命の美しさ」の対比に
胸を締め付けられる思いがしました。
自らの身を犠牲にして
一艘のヨットで
同胞の救出に向かうラヤダー。
人間嫌いだった彼が
そのような行動に出たのは、
やはりフリスと接する中で、
頑なだった彼の心の氷が
融けていたからなのでしょう。
傷が癒えた後も
毎年渡ってくるスノーグース。
戦争が激化した年、
ラヤダーと行動を共にします。
言葉を介さなくとも
ラヤダーの心が
わかるかのような振る舞い。
戦場の兵士にとっては
幸せを運ぶ鳥のように
見えたのでしょう。
ラヤダーとの日々の中で
成長する少女フリス。
はじめはラヤダーの醜い容貌に
恐れを抱いていたのですが、
本当に美しいものが何かを
知っていきます。
戦火に染まった空から
降りてきたスノーグース。
「このときフリスの胸のなかで
堰を切りました。
湧きたち息づまるばかりの
まことの愛が解き放たれて、
涙となって存分に
ほとばしりでたのでした。」
スノーグースとともに
大空を翔るラヤダーとフリスの心。
「フリス、フリサ!
いとしいフリス!
さよなら、愛しいひと」
「フィリップ!恋しいよう」。
美しい三者の心が
一つになった瞬間です。
最後にフリスの見守る中、
ラヤダーの魂と一体化して
昇天するように羽ばたく
スノーグースの姿には、
神々しささえ感じてしまいます。
まさに大人のための童話です。
自分の心を洗濯したような
気持ちになりました。
6日間の年末年始の休日も
今日で終わりです。
明日からの仕事に
新しい気持ちで
取りかかりたいと思います。
※アンジェラ・バレットの
イラストによる絵本版もあります。
また、英国の
ロックバンド・キャメルによる
音楽版もあります。
いつか絵と音も
味わいたいと思います。
(2019.3.21)
