大人のための、ちょっとだけ甘い恋物語
「四月ばーか」(松久淳+田中渉)講談社文庫
守山亨のマンションへ同じ日に偶然、
大学時代の二人の親友が訪ねてくる。
「女癖は悪いが
腕は確かな」美容師・今野新一と、
3年ぶりに海外から帰国した
「離婚経験のある」北村朋子だった。
その日から
3人の奇妙な共同生活が始まる…。
一口で言うと恋物語なのですが、
近年のトレンディな
TVドラマとはちょっと違います。
この3人それぞれの恋愛、
というよりも恋愛観を
描き出した作品といえます。
守山亨。
仕事の速いデザイナーなのですが、
女心を理解できていません。
相手にフィフティーフィフティーの
関係を望む余り、
男に強さを求める女性の気持ちを
無意識に避けてしまうのです。
だから学生時代は朋子と
中途半端な関係で終わり、
2年前には恋人の七美に逃げられ、
事務所の後輩の松波ゆきえとは
あと一歩を踏み出せず、
30歳まで独身だったわけです。
今野新一。
腕の確かな美容師であり、
髪を切っているときに限り
その女性の年齢を正確に当て、
さらには何を考えているか
読み取ることができる能力を
持っています。
あまり美人ではない女性に手を出し、
ほどほどのところで切り上げ、
深く関わろうとはしません。
ゆえに30歳まで独身だったわけです。
北村朋子。
大学を卒業したあと海外へ渡り、
香港で結婚。
勢いで結婚したために
勢いで別れることになります。
その男性が日本に帰国しすぐに再婚。
ところがその2ヵ月後に事故死。
彼女は混乱の末、
日本に一時戻ることにしたのです。
守山をあてにして。
バツイチのために32歳で独身なのです。
トレンディな雰囲気はありません。
大人の恋愛といった風情もありません。
本作品の特徴は
今野の放った一言に集約されています。
「オレたちもう三十歳ですよ。
守山さんもオレも、
なんでいまになって
高校生みたいな
恋愛してるんですかね。」
そうです。
大人になりきれていない大人たちの
恋物語なのです。
だから何となくほっとします。
そして
30歳になる前に結婚していた私などは、
こんな恋愛もあるのかと、
少しだけ羨ましさも感じてしまいます。
時代設定は1997年。
まだ20世紀。
携帯電話が普及しようとしていた頃です
(本作品には携帯は登場しない)。
読み終えてから気づきましたが、
主人公たちは私とほぼ同世代なのでした。
大人のための、
ちょっとだけ甘い恋物語。
いかがでしょうか。
※男2人と女1人のトリオ。
映画にはこの組み合わせが
多いと思います。
スター・ウォーズの
ルーク、レイア、ハン・ソロ。
ハリー・ポッターの
ハリー、ハーマイオニー、ロン。
などなど。
男2女1は黄金比なのかも知れません。
(2019.3.30)