「ああ祖国よ」(星新一)

政治の体質にも鋭い批判が込められています

「ああ祖国よ」(星新一)
(「あしたは戦争」)ちくま文庫

「おい、起きろ、戦争だ…」という
上司の電話で目覚めた「私」。
日本が宣戦布告を受け、
戦争に突入したのだという。
そしてそれは
「私」の勤める局の特種であり、
これから特集番組を
組むのだという。
一体どこの国が日本に…。

日本に戦争を仕掛けたのはどこの国か?
北○鮮か?
ロ○アか?○国か?
それとも○国か?…なんと
アフリカの小国・パギジア共和国
(もちろん架空)でした。
アメリカから譲り受けた
中古の軍艦(漁船並の大きさ)2隻で
本国を出港、約40日後に
日本に到着するという設定です。
圧倒的に日本の軍事力の方が
勝っているのですが、
ことはそう簡単にいきません。

全編抱腹絶倒のお笑い系SFです。
中心に据えられているのは
国難でさえも
エンターテインメントにして
視聴率合戦を繰り広げる
日本のマスメディアに対する
揶揄なのですが、
政治の体質にも
鋭い批判が込められています。

まずは危機管理の現状認識について。
「まだ報告は受けていない。
 事実とすれば大変だ。
 まことに遺憾に存じます。
 さっそく調べて善処する。
 いま申し上げられるのは、
 これだけでございます。」

外務省の役人の答弁です。
現実の国会でも、
これらの言葉の組み合わせで
殆どが済まされています。

そして問題の対処について。
宣戦布告書を持ち込まれた
日本の在外公館は、
責任問題を回避するために
付近の国々の領事館を
たらい回しにする。
ようやく日本に届くと、
交戦状態を認めるわけには
いかないのでその確認を避ける。
役人の無責任体質が
余すところなく描かれています。

戦争回避のための外交努力について。
頼みの綱のアメリカは、
パギジアとの中立条約を理由に
動こうとしません。
国連をはじめとする他国も
知らないふりです。
「強きを助け弱気をくじく」結果に
なるのは、
各国ともどうにも具合が悪いと
いうことなのでしょうが、
それにしても日本の外交ルートは
貧弱すぎます。

そうこうしているうちに、
パギジア軍は
いよいよ日本に上陸します。
どうする日本?
やはりどうもしません。
50名のパギジア軍を歓待し、
おもてなしするのです。
戦争もせず降伏もせず
かといって対話するわけでもなく、
すべてを曖昧にぼやかし終わらせる。
日本特有の「玉虫色の決着」です。

本作品が発表されたのは1969年。
私たちの国の体質は、
50年前とあまり変わらないのか、
それとも右傾化して
それなりに変わったのか、
どちらでしょうか。

(2019.4.6)

Achim ScholtyによるPixabayからの画像

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