「処刑」(星新一)

本当に恐怖すべきは、「男」が回想する地球の姿

「処刑」(星新一)
(「暴走する正義」)ちくま文庫

地球で罪を犯し、
刑として「赤い星」に
置き去りにされた「男」。
持ち物は手渡された「銀の玉」のみ。
水のないその星で生き延びるには、
その「銀の玉」がつくり出す
水が必要だった。
しかし、「銀の玉」のボタンを押した
何度目かには…。

爆発するのです。
人間一人を殺傷するのに
十分すぎる爆発です。
つまり囚人たちは、
いつ爆発するか知れない
「銀の玉」のボタンを押して
水を得るしかないのです。
生き延びるためには常に「死の恐怖」を
存分に味わわなければならない。
これこそが究極の「処刑」なのでしょう。

そのシンプルかつ非情かつ
完璧な「処刑」方法は、
読み手に底知れぬ寒気を
感じさせるのですが、
本当に恐怖すべきは、
「男」が断片的に回想する
地球の姿なのではないかと思うのです。

未来の地球は、
無機質の「機械」に囲まれた
世界となっているのです。
「朝から晩まで単調なキーの音を聞き、
 明滅するランプを
 見つめているような仕事。
 それの集った一週間。
 それの集った一ヶ月。
 その一ヶ月が集った一年。
 その一年で成り立つ、一生」

そしてそれらの「機械」は、
不満分子をあぶり出し、
犯罪に走らせます。
その先にあるのは
電子頭脳で即決される裁判と
犯罪者を地球から排除する法体系です。
つまりは機械と共存できない人間を
粛正する社会システムが
完璧なまでに構築されているのです。

本作品で表現されている「機械」とは、
今でいう「AI=人工知能」と
考えられます。
感情的になってしまう人間を、
AIが徹底的に排除した先にある
世界の姿。
感情の起伏のない人間たちが
誰にも傷つけられず、
誰をも傷つけない社会。
事件も事故もなく、おだやかに、
しかし単調に、
流れていくだけの毎日。
それがユートピアなのか、
ディストピアなのか、
あえて問うまでもないでしょう。

人工知能に人類が支配されるSF作品は、
小説にも映画にも数多くあります。
しかし、
AI管理社会を直接的に描かず、
その社会から
はじかれた人間の悲哀を通して、
その社会の恐ろしさと空しさを
鮮烈なまでに浮き彫りにしたのが
本作品の特徴でしょう。

SFアンソロジーである本書
「暴走する正義」に収められた
作品群の中でも、
本作品の味わいは際立っています。
高校生に薦めたい逸品です。

(2019.4.6)

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