大人としてこうでありたい
「ゆめみの駅遺失物係」(安東みきえ)
ポプラ文庫ピュアフル
前回取り上げた本作品、
月曜日から日曜日までの
7つの章に分かれ、
「あたし」が通う度に
遺失物係の担当者は
毎日違う「おはなし」を
聴かせてくれるのです。
全体の物語の中に
7つの「おはなし」が鏤められている、
いわば「入れ子構造」に
なっているのです。
月曜日:ふゆのひだまり
火曜日:飛べない鳥
水曜日:バク
木曜日:夢のおうち
金曜日:幸福の蝶
土曜日:まっくらけっけ
日曜日:青い人魚とてんとう虫
それぞれの「おはなし」が
童話として素晴らしく、
ひとつひとつについて
取り上げたいくらいです。
でもそれ以上に、
それぞれの「おはなし」のあとで
遺失物係が
「あたし」に投げかける言葉が
とっても素敵なのです。
月曜日、火曜日は、
係は特段語りかけません。
「あたし」を受容しようという姿勢です。
水曜日から始まります。
「夢見ることは
ばかみたいではないですよ。
どんなすばらしい未来も、
まずだれかが夢見ないことには
はじまりませんから。」
「あたし」は傷つくのをおそれ、
望みを持たない少女なのです。
「夢見るのは
なんだかばかみたい」という、
水曜日に訪れた「あたし」に、
遺失物係はおだやかに、
でも毅然と諭すのです。
「ぼくは、こんなふうに、
だれかといっしょに
生きていきたいと思います。
ぼくはだれかといっしょに、
年をとりたいと思います。」
木曜日です。
他人のために命を失った
二匹の蝶の生き方を
批判した「あたし」に、
遺失物係は温かく語りかけます。
「あたし」の考えを否定するのでもなく、
自らの意見を押しつけるのでもなく、
しかし確実に
心に染み込むような言葉です。
「どんなものにも生まれる時があり、
そのあとにたどる運命があります。
おはなしだっておなじです。
その運命によっては
語られないままの
おはなしだってでてきます。」
金曜日の「あたし」は
だいぶ心が素直になりかけています。
「あたし」の考えに共感しながらも、
一つの方向を示唆するのです。
最後の日曜日は、遺失物係は
「あたし」の背中を押すだけです。
「あたし」はしっかりと
歩いていくことが
できるようになったからです。
「あたしは、今度こそ
自分の物語を
作ってみようと思いました。」
「あたし」の変容を的確に捉え、
必要な関わり方を行う遺失物係。
大人としてこうでありたいと
思いました。
大人のあなたにも
ぜひ読んで欲しい童話です。
(2019.4.19)